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てくてくてくてく。
てくてくてくてく。
てくてく……。
「んもう!何でついてくるのさっ?!」
俺はあの後、子どもみたいに泣いてしまって恥ずかしくなり、パンケーキは一口も食べず、会計だけ済ませて店を逃げるようにして出た。
そして家に帰るべく歩いているのだが……。
「それはハニーがいるところが私のいるところだからだ」
「だからー俺あんたのハニーじゃねーし。何かの間違いっしょ?」
「間違いなくキミは私のハニーだよ?」
あーもうっ話通じない!
いい大人がハニーハニーって、いったい何なの?
キッと睨みつける。
男はひるんだ様子もなくにこにこと笑って俺を見ていた。
「それと、私は今非情に困っているんだ」
困ってるのは俺だっつーの。
「何?」
「私は行くところがないんだ」
「へぇ?」
「一ヶ月もすれば迎えが来るのだが、それまではハニーの家に住まわせてもらえなかったら私は宿無しということになる」
「え、何で俺が?」
「キミが私のハニーだから、だ」
ははぁ。この男俺の事ハニーハニーって言ってるけど、結局は住むところが無くて困ってたって事か。それで俺に目を付けた、と。
何で俺なんかって思うけど、それはまぁどうでもいいや。
「――――俺にメリットは?」
「炊事洗たく掃除何でもやるぞ。どうだ?」
俺としては別に家事は苦じゃないし得意な方だからわざわざこの人にやってもらわなくてもいいんだけど、なーんかほっとけないっていうか……。
しょうがねーな。
「わかった」
「ハニー愛してる!」
男によってすっぽり包み込まれてしまって身動きがとれない。
男に抱き着かれるとか抵抗がある!……ある?が、抜け出せないのはわかっているので黙ってされるがままになっている。
無駄な事しても疲れるからね。
「ただし、条件がある!」
「条件?何でも言ってくれ。あぁ愛しているよハニー」
すりすりすりすりと俺に頬ずりをする。
「そ・れ・だ!ハニーじゃねーって言ってるだろう?」
「ふむ。ではハニー(仮)でどうだね?」
「(仮)?」
「そうだ。今はキミが認めてくれなくても、いつかきっと認めさせてみせる。そして、(仮)は取らせてもらう。だから今は不本意だが『ハニー(仮)』で我慢しよう」
言ってる事は無茶苦茶だってわかるけど、この男の嬉しそうな顔を見てたらそれ以上何も言えなくなってしまった。
こうして俺、萩原理人19歳とカイル30歳との俺のアパートでの奇妙な同居生活が始まった。
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