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嘘つき!嘘つき!嘘つき!
ハニー(仮)から(仮)外させるって言ってたくせに!
こんなに……こんなに好きにさせたくせに―――っ!
後からあとから涙が溢れた。
知らない間にこんなにカイルの事が好きになっていたなんて、自分でも気づいていなかった。
泣き続け、涙も枯れた頃スマホが鳴った。
「カイル!?」
自分で追い出したくせにもう声が聞きたくなっていた。
声が聴きたい。話がしたい。会いたい。
抱きしめてほしい。
笑いかけてほしい。
撫でてほしい。
キスして―――ほしい。
だけど、電話をかけてきたのは母親だった。そして母から告げられたのは俺が思ってもいなかった言葉で。
『カイル君から熱が出たって連絡もらったんだけど、熱はもう大丈夫なの?』
「え?カイルの事知ってるの?」
『あら、まだ思い出してなかったのね。一緒に住んでるって言ってたから、てっきり思い出したのだと思ってたわ』
「―――――え?」
『9歳の頃家族で海に行ったじゃない。そこでたまたま会ったカイル君に懐いちゃって「お兄ちゃん、お兄ちゃん」って付いて回ってたのよ?そして「お兄ちゃんのお嫁さんになる」ってあなた。そのあとはしゃぎすぎて溺れちゃって、カイル君が助けてくれたのよ?その後、高熱が出ちゃってその時の事まるっと記憶から消えちゃってたみたいだったんだけど、カイル君があなたが大人になったら迎えに来るからそれまでは言わないでくださいって』
「な、なんで??」
『10年はやらなければいけない事があるから会えない。覚えていたら会えない間あなたが悲しむからって。迎えに来た時に必ず思い出してくれるから、とも言ってたわね』
「…………」
『――――カイル君と何かあった?』
「ごめん。また連絡する!」
俺はいてもたってもいられなくなり部屋から飛び出した。
何時間でもみつかるまで探す覚悟をしていた。
いたんだが、すぐにみつかった。
カイルがドアの横で膝を抱えて項垂れていたのだ。周りには沢山のスイーツの入った箱箱箱。
「え……?」
「まだ期限は来てないからね……ハニー(仮)のとこ以外行くところがないよ。その…理人の好きな甘いものを沢山買ってきた……。これを食べる間だけでも話を聞いてくれないか……?」
と、カイルは切なげに菫色の瞳を揺らし、俺をみつめる。
食べてる間って……こんなの…食べきるのに一体何日かかるんだよ…。
いくら俺がスイーツを好きでも……食べきれないよ…。
「カイル。買いすぎだ。大好きなスイーツへの冒涜だ。食べきれなくてダメにしちゃうだろ」
「―――ごめん…。それでもどうしても理人と話がしたかったんだ…」
しゅんと項垂れるカイル。
あぁもうっ。こんなに恰好よくておまけに可愛いなんて反則だろ!?
「カイル…。条件がある」
「うん…」
カイルの喉がゴクリと鳴ったのがわかった。
「買ってきたスイーツ俺も食べるけど、カイルも食べろ。そして、全部食べ終わったら―――(仮)を外してやる」
「え………」
「嫌なのかよ…」
「ちがっ……!ハニーをお嫁にもらっていいんだね!?約束通りお嫁さんになってくれるんだね?マイスイート!甘いものだって毎日用意するし、大切にする!結婚の事だってお爺様は私の味方だから何の心配もいらないぞ!」
カイルから『嬉しい』があふれ出す。
そんなカイルを見と心がほわほわしてくる。
きっと俺からも『嬉しい』があふれているだろう。
「カイル……待たせてごめん」
「いいんだ。いいんだよ。私のお嫁さんになると言ってくれた。それだけで私は嬉しい」
「でも、この10年長かったよな」
「理人を想うのに10年でも短いくらいだよ。ずっとずっと愛してる」
「カイル……愛してる…」
俺はカイルの唇に自分の唇をあて、触れるだけのキスをした。初めて交わす口付けはレモンの味も砂糖菓子の味もしなかったけど、とてもとても甘く感じた。
それから俺たちはカイルが買ってきたスイーツを必死になって食べた。
スイーツ好きの俺でもしばらくは見たくないかもしれない…。げぷっ。
こうして俺はハニー(仮)からハニーになった。
-終-
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