0人が本棚に入れています
本棚に追加
私はうっかりさん。
何時も私は何処か抜けている。
財布を忘れたり、携帯電話を落としたり。何かと警察にお世話になるから顔も覚えられてしまった。
でも、今日だけはしっかりしないと。
息子の小学校卒業式。ここでうっかりなんて許されない!
家を出る前に身だしなみを姿見でチェック。
黒のスーツに、ネックレス。お化粧も身だしなみも大丈夫。
その場でくるりと一回転。うん、いい感じ。
忘れないように玄関の前にあらかじめ置いてあった財布を手に取る。
財布からハラリと写真が落ちる。
落ちた写真を拾う。そこには笑顔の私と夫が赤ん坊の息子を
挟んで映っていた。
ぐしゃぐしゃで、よれよれの写真。それを再び財布にしまう。
ドアノブに手をかける。
”――いってらっしゃい”
振り返る。
誰もいない。
静まり返った家の中。二人で住むには大きな家。
私はうっかりさんだ。
落としたものは返ってくる。落としたものは帰ってこない。
あの笑顔を見ることは二度とない。
大きな落としものを私はしてしまった。
「いってきます」
返事はない。
もう、おとしものはこりごりだ。
最初のコメントを投稿しよう!