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第4話 かげほうし
斉藤さんは1カ月も経つと学校に慣れてきたみたいで
周りにはいつも女子クラスメートの誰かがいる。
そんなもんだから僕から話かけられるはずもなく、最近は遠目からしか見ることが出来なくなった。
でも、ふと思う。
何故か彼女ではないとわかっているはずの斉藤さんのことがどうしても
気になってしまう。
・・・
まぁ、アルバムを見ているような気分にでもなっているのだろう。
そう虚空に言い訳した。
ぼんやりと斉藤さん越しに窓の外を見ていると斉藤さんの目がこちらを見ていることに気づいた。
目が合うとこちらに軽く会釈してまた友達との会話に花を咲かせていた。
ずっとこっちを見ていると思われただろうか。
恥ずかしくなった僕は机に伏し、寝たふりで休み時間を乗り切った。
次の科目は数学。
やたらと板書が長く大体の生徒が寝て過ごす時間。
教科担当の先生も温厚な人で別に寝ている生徒に対して特段注意することはない。とてもゆるい授業の一つだ。
まぁ、試験の方は最も難しいのだが。
僕もみんなと同じように寝ていた。
すると肩をトントン、と叩かれ起き上がる。
斉藤さんがこちらにノートを見せていた。
綺麗な字でまとめてある隙間に何か書いてある。
「先ほどの休み時間、こちらを見ていましたがどなたか好意を寄せている方で
もいらっしゃいましたか?」
やっぱり、そう思っていたか。
僕もノートに返事を書く。
「外を見てただけだから、あと、僕に好きな人なんていないよ」
それを斉藤さんに見せる。
斉藤さんは何やらにやにやしながらそれに対する返事をまた書いている。
「すみません。もし私が気になっていらっしゃったら
気になってるなんて本人に言えませんよね。迂闊でした」
ガシャ
「ち、違うって!」
ノートでの返事ではなく、つい、声が出てしまった。
いままで寝ていた人たちは、もちろん数式の解説をしていた先生まで注目している。
「・・・すみません」
しょんぼりと椅子に座る僕を尻目に斉藤さんがクスクスと楽し気に笑っている。
その姿が彼女にぴったりと重なった。
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