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俺の肩にもたれかかり、すっかり爆睡している楠木を起こし、先に電車から降りた。
「う~……さむっ」
さっきまではアルコールと楽しい時間のおかげで暖かかったのに。
マフラーを首にぐるぐる巻き、コートのボタンを襟元まで留める。
「ふー。……お、星が綺麗だなぁ~」
夜空を見上げて声を出せば、吐く息が白く舞い上がった。
シャッターが閉まって静まり返った駅前の商店街をブラブラと通り抜け、アパートがある住宅街の方へ歩いていく。
なだらかな上り坂。
ゆっくりゆっくりと登りきると目の前にはだだっ広い公園がある。
その公園をぐるりと囲むように続く道路。公園の反対側には戸建の住宅が並んでいた。
俺の住むアパートはその並んでいる住宅から八軒目。最近建ったばかりのいわゆるデザイナーズアパート。ちょっと洒落た作りになっていて機能性も高い。不動産屋をめぐり探して探して決めた、こだわりの我が家だ。
「ん?」
公園を真ん中辺りまできた時、携帯の着信音が聞こえた。
あれ? とカバンの中の携帯を探る。
……俺じゃない。だよな。音ちっせーもん。
聞こえてきた音は俺のと同じだった。
どこで鳴ってるんだ?
その音はずっと鳴り続けている。
もしかして、落し物があるのか?
割とすぐ近くで聞こえる音に周りをキョロキョロと確認。次にフェンス越しの公園を見て「あっ」と、思わず小さく声を上げた。このクソ寒いのにベンチに人がいる。
な~んだ。あいつの携帯か……え?
俺は目を疑った。
枯れ木みたいな桜の木の下にあるベンチ。そこに座っていた男は新聞紙を自分の体にせっせと巻きつけていた。
な、なに……やってんの?
そいつは新聞紙をバスタオルみたいに体に巻きつけ脇に挟むと、また別の新聞紙を広げ、ベンチに敷いた。新聞紙が風で飛ばされそうになるのを必死に抑えながら横になろうとしてる。
それからズボンのポケットへ手を突っ込み、携帯を取り出すと鳴り続けていた音が切れた。男は携帯をポケットへしまうと、自分を抱くように腕を組んで体を縮めた。
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