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「あ、あの……もしかして、公園で寝るつもり?」 「そうだけど」  見りゃ分かるでしょ? と言いたげな声。  また着信音が鳴ったが、鬱陶しそうに携帯を取り出し通話を切ってしまう。 「……家出したの?」 「そ」  素っ気なく言うとポケットに携帯を落とし、公園の中へ戻ろうとする。その背中に少しだけ大きな声で言った。 「明日の朝は多分、マイナス三度くらいになるよ。下手したら……ていうか、凍死するかも。公園はやめたほうがいいと思うけど」 「……凍死……ん~。つっても行くとこないしなぁ」  星空を見上げ、男は指先で顎をポリポリと掻いた。  あんまり困った雰囲気でもないのが不思議だ。 「……うち、来る?」  口に出した途端、一気に後悔した。  さっき触らぬ神になんとかって思ったばかりなのに。  あ、でも、物騒な世の中だ。警戒心もあらわに拒否されるかもしれない? と、ちょっと期待する。  でも男はパッと顔を上げ、期待に満ちた眼差しで俺を見た。 「マジで?」 「え、あ、う……うん……。アパートだし、狭いし、あんまキレイじゃないけど、ここよりはマシだとは思う」  男は、体ごとクルリと方向転換してこちらへトトトと歩み寄った。手に持っていた新聞紙が落下し風に舞い上がる。  次の瞬間、俺の手はキンキンに冷えた両手に握られていた。  意外に柔らかい手にいきなり握られドキッとする。男は更に俺の手をキュッと握り言った。 「あんた良い人だね!」 「つめた……。冷え切ってんじゃん。すぐそこだから、とりあえず歩こうか?」  俺は男の手から自分の手を解くと、パッと離れ歩きだした。  動揺している。自ら引き起こしたことだけど、すごく動揺してる。  それを悟られたくなかった。  男は黙ってうしろをついてくる。  歩く足音は、妙に軽快な音に聞こえた。
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