1272人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あの……もしかして、公園で寝るつもり?」
「そうだけど」
見りゃ分かるでしょ? と言いたげな声。
また着信音が鳴ったが、鬱陶しそうに携帯を取り出し通話を切ってしまう。
「……家出したの?」
「そ」
素っ気なく言うとポケットに携帯を落とし、公園の中へ戻ろうとする。その背中に少しだけ大きな声で言った。
「明日の朝は多分、マイナス三度くらいになるよ。下手したら……ていうか、凍死するかも。公園はやめたほうがいいと思うけど」
「……凍死……ん~。つっても行くとこないしなぁ」
星空を見上げ、男は指先で顎をポリポリと掻いた。
あんまり困った雰囲気でもないのが不思議だ。
「……うち、来る?」
口に出した途端、一気に後悔した。
さっき触らぬ神になんとかって思ったばかりなのに。
あ、でも、物騒な世の中だ。警戒心もあらわに拒否されるかもしれない? と、ちょっと期待する。
でも男はパッと顔を上げ、期待に満ちた眼差しで俺を見た。
「マジで?」
「え、あ、う……うん……。アパートだし、狭いし、あんまキレイじゃないけど、ここよりはマシだとは思う」
男は、体ごとクルリと方向転換してこちらへトトトと歩み寄った。手に持っていた新聞紙が落下し風に舞い上がる。
次の瞬間、俺の手はキンキンに冷えた両手に握られていた。
意外に柔らかい手にいきなり握られドキッとする。男は更に俺の手をキュッと握り言った。
「あんた良い人だね!」
「つめた……。冷え切ってんじゃん。すぐそこだから、とりあえず歩こうか?」
俺は男の手から自分の手を解くと、パッと離れ歩きだした。
動揺している。自ら引き起こしたことだけど、すごく動揺してる。
それを悟られたくなかった。
男は黙ってうしろをついてくる。
歩く足音は、妙に軽快な音に聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!