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「ヒロ君は?」
「ひ、へ、へ?」
「いくつなの?」
一瞬耳を疑ってしまった。ヒロタカだから、ヒロ君ね。なるほど。
「あ、俺は、二つ上だよ」
「お兄さんなんだねぇ〜、道理で面倒見いいんだ」
お兄さんって……二つしか違わないし。だいたい二十六歳なのに、なんでそんな幼い雰囲気を醸し出してんだよ。
なんと返してよいのか分からない俺に「ふふっ」とユウは笑って、立てていた膝を左右に割りあぐらをかいた。
コーヒーカップを手に取り口元へ近づける。もうとっくに冷めているだろうに、慎重に温度を確かめる様子は、やっぱり背伸びしているガキにしか見えない。
「……家出したって、言ってたよね? 親と住んでいた家からってこと?」
「ううん。彼氏。あ、恋人?」
「……へ? かれ……し?」
またもや耳を疑った。
言い直したけど、今「彼氏」って言ったよね?
固まっている俺にユウはちょっと苦笑いして言った。
「恋人の方で」
「あ、う、うん。……そっか……喧嘩とかじゃなくて、お別れしたからってこと? あ、話したくなければいいんだけど……」
「そ。お別れ」
ユウはあっけらかんと言ってのける。
全く気にしていないみたいだ。
あ、さっき。
公園でひっきりなしに鳴っていた携帯を思い出した。
ユウの恋人は別れたくなかった。ユウは別れたかった。ラチがあかないからユウが家出した。……って、ところなのかもしれない。それならこのケロッとした感じも納得できる。
ということは……相手は別れを納得してないのではないか? 俺には関係ないことだけど、でも同じ男としてちょっと同情する。
「さっきのでん……」
言いかけた時、キッチンの方から風呂が沸いたアナウンスが流れた。
「あ、風呂沸いたって。入っておいでよ。着替え出しておくし」
「はーい」
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