1/12
1265人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ

「う~……さむっ」  電車から降りた途端、肌に突き刺さるような寒風に首を竦めた。コートのポケットへ突っ込んでいたマフラーを慌てて首に巻く。  今日は仕事納めの日だった。  明日から連休。更にこの年の瀬に大きな契約を成立させた俺は上機嫌だった。月初めにボーナスも入ったし、二日前に給料も入ったばかりで懐もホクホク。という理由もある。  いつもは駅前のスーパーに寄り、三割引になった刺身をつまみに一人手酌で夕飯を済ます。でも今日は、パーッと外で飲んでもいいかな? なんて気分になっていた。  そんな俺にナイスタイミングで声をかけてきたのが同期の楠木(くすのき)。 「さすが同期のホープだねぇ~。火神(かがみ)くーん!」  楠木は気心もしれている。明るくていい奴だし、飲んで性格が豹変することもないし、一緒にバカ騒ぎもできる。今の気分にピッタリの相手だった。  俺達は夜の街へ繰り出し、ホルモン鍋とビールで祝杯を上げた。  散々飲み食いして、盛り上がった勢いのままカラオケで熱唱。ウトウトしだした楠木を起こし、乗り込んだ電車は終電だった。いい気分のまま揺られること二十分。  俺は酒に飲まれるタイプじゃない。目は閉じていたけど、最寄りの駅へ到着するアナウンスで、すぐに意識が戻った。 「じゃな。今日はありがとう。来年もよろしく。良いお年を! って、乗り過ごすなよ!」 「ん……おお……」
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!