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「う~……さむっ」
電車から降りた途端、肌に突き刺さるような寒風に首を竦めた。コートのポケットへ突っ込んでいたマフラーを慌てて首に巻く。
今日は仕事納めの日だった。
明日から連休。更にこの年の瀬に大きな契約を成立させた俺は上機嫌だった。月初めにボーナスも入ったし、二日前に給料も入ったばかりで懐もホクホク。という理由もある。
いつもは駅前のスーパーに寄り、三割引になった刺身をつまみに一人手酌で夕飯を済ます。でも今日は、パーッと外で飲んでもいいかな? なんて気分になっていた。
そんな俺にナイスタイミングで声をかけてきたのが同期の楠木。
「さすが同期のホープだねぇ~。火神くーん!」
楠木は気心もしれている。明るくていい奴だし、飲んで性格が豹変することもないし、一緒にバカ騒ぎもできる。今の気分にピッタリの相手だった。
俺達は夜の街へ繰り出し、ホルモン鍋とビールで祝杯を上げた。
散々飲み食いして、盛り上がった勢いのままカラオケで熱唱。ウトウトしだした楠木を起こし、乗り込んだ電車は終電だった。いい気分のまま揺られること二十分。
俺は酒に飲まれるタイプじゃない。目は閉じていたけど、最寄りの駅へ到着するアナウンスで、すぐに意識が戻った。
「じゃな。今日はありがとう。来年もよろしく。良いお年を! って、乗り過ごすなよ!」
「ん……おお……」
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