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「じゃ、残ったものは一つだね」
ジェイの声が陽気に余計なことをほじくり返す。浜田さえもう忘れていたのに。
「一つ? 残ってるって?」
「初めての夜をどこで過ごすかってこと。どこかに泊まりたいって言ってたでしょ?」
「そう、だっけ?」
「そうだよ! まさなりさん、それって大事なことだよね!」
「もちろんだとも」
(わ、そこで父さんに振るか?)
「それも浜ちゃんに任せれば」
「いや、花。私は結婚祝いとして心ばかりのプレゼントしたいと思う。浜ちゃん、せめてそのくらいはさせてもらえないだろうか?」
(あ、だめだ)
花は父をよく知っている。
父はいつも相手に許しを乞う。これは母も同じだ。自分がしてもらう立場なのに、『あなたのために受け入れよう』という錯覚を起こさせる。形は提案で許可を求めているのに、実は逃げ場を用意していない。自然とやっているものだと思う。計算が出来る2人じゃない。
けれど『心ばかりのプレゼント』。きっと碌なものじゃないと思う。
「父さん、浜ちゃんは自分で陽子を驚かせた方がいいんじゃないかな。サプライズってヤツ」
「私は2人にサプライズを贈りたいんだよ。浜ちゃんの抱えていた悩みはほとんど君が解いてしまった。ジェイは浜ちゃんにこれ以上に無い安らぎの言葉を贈った。浜ちゃんが幸せになることで沙都子さんが幸せになる。なんて豊かな考え方だろう! それに引き換え私はどうだ? なにも浜ちゃんの役に立てていない…… 愚かではあるが、サプライズならきっと用意できるだろう。それとも、それも許されないだろうか。私は君たちの仲間になりたいと心から思っているんだよ」
(うわぁ…… これ、NOなんて言えるわけないじゃん!)
浜ちゃんは間を置かなかった。
「ありがとう、まさなりさん。サプライズ楽しみにします! 嬉しいです、今日は、最高の日だよ…… 花、ジェイ、ここに来て良かった。まさなりさんに会えて良かった……」
これは父の魔法だ。誰もが最後にはそう思う。『会えて良かった』。
自分にとってはどうしようもなかった父と母。いろんな思いを経て、これほど変化した人は周りにはいない。浮世離れした2人は、人を幻想の世界に誘う。そして後悔させない。裏表のない2人の心が溢れているからだ。
「花は? 君は許してくれるかい?」
ため息をつくしかない。
「俺が許すかどうかじゃないって。浜ちゃんの決めることだからね。だからいいんじゃないの?」
そこに『ただ、やり過ぎないで』と付け加えようとしてやめた。自分はいつも2人の好意に水を差す。足枷になっている。父には何よりも自分の許しが必要で、いつも自分はストッパーだ。自分に欠けているものを花は知っているつもりだ。『寛容』。それが自分には無いと思う。
(俺、多分一生親不孝なままだ)
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