ディフェンダー・ストッパー

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   夕食は楽しかった。初めて見る宗田親子と宗田本家の繋がり。その中でほわんと自分の場所を確立しているジェイ。  ゆめさんは「浜ちゃん、これいかが?」と聞いてくれた。 「日本的じゃない料理なのだけど『ケシケキ』といって、トルコでは儀式に出される料理なの。ちょっとアレンジしたから食べやすいとは思うんだけれど」  食べたことの無いトルコ料理に恐る恐る手を出した。 「おいしい! 美味いです!」 「良かった! 花にはケバー(ケバブ)よ。辛みを効かせておいたわ。マッシュポテトを添えたけど良かったかしら。子どもたちとジェイなら大丈夫よ、真理恵ちゃんが料理したから」 (そうか、ジェイは子どもたちの括りなのか) それも妙に納得がいく。 「美味いよ、母さん。こら! 花音、花月と席を交代するんじゃない! ジェイもそういうところ注意しろよ!」  花父が喋っている間に花月と交換してジェイの隣に座ろうとした花音は、花父を睨みながら元に戻った。花父がちょっと怯んだ顔を見せる。 「ジェイくんの隣が良かったんだもん」 「今年は『ジェイくん』をやめなさい。『ジェイおじさん』」 「花さん! 『おじさん』はやだよ!」 「なに言ってんだ、今年幾つになると思ってるんだよ!」  途端にフォークを持ったまま耳を塞いだジェイに、花月がにやっと笑った。 (わ、花二世だ) 思わず浜田は心で呟いた。花月はどんどん花にそっくりになっている。顔だけじゃない、仕草や雰囲気だ。  帰る時には名残惜しい気持ちだった。 「またいらしてくれるわよね?」 「お待ちしてるよ。ここはみんなの家でもあるから」  手を差し出すまさなりさんと握手をする。 「はい、来ます!」  不思議だ。2人の喜んだ顔に、自分なりのお返しが出来たような気がする。  さて、帰宅の道のりは緊迫した時間となった。花の車は花家族でいっぱいだ。ジェイと浜田の乗る余地がない。 「タクシー使うよ。駅まで行けば後は電車に乗ればいいし」 「だめだよ、そんなの! 今日はジェイを託されたんだから電車でなんか返せない」  それもそうだ。 「でも俺、ワイン飲んじゃったし」 「俺が運転できるよ!」  ジェイが名案のように言うから花は無視した。 「しょうがない、父さんに車を借りてくる」 「でも花くん、運転は」 「大丈夫だって。夜だし交通量減ってるし。俺だってもうそれくらい出来るよ」  そこからは小さな声だ。 「ジェイをちゃんと帰さなきゃいけないって、マリエだって分かってるだろ?」  それで真理恵は折れた。先に出発する真理恵と子どもたち。 「少しはスピード出せよ」 「私は決まりは守るの」  なにを言っても無駄なのは花だって分かっている。   
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