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「それでもやっていこうよ! 蓮ちゃんはどんな覚悟だってしてるんでしょ?」
「している。いざとなったら東京から消える。店は残していくよ。源も眞喜ちゃんもいる。なんとでもなるだろう。店とジェイとを天秤にかける必要もない。なんなら海外だって構わない」
いきなり包まれる孤独感。花にも浜田にもそれは恐怖だった。
(失う…… 2人を?)
その恐怖はあの時と同じ。ジェイが入院した時に蓮が漏らした『辞めるか』という言葉を聞いた時だ。
「そうはさせない。悪いけどさ、俺たちは河野さんもジェイも失う気無いから。出来るだけのことしか出来ないとは思う。でもさ、その『出来るだけのこと』ってのの底力を見せるよ。そんな選択、河野さん1人で取らないでよね。会社辞めたから俺たちへの責任が消えたと思ったら大間違いだ!」
「そう言ったって河野さんが選ぶならしょうがないだろ!」
「うるさい! 俺は手離す気なんかない! 消えたりしたら承知しない、許さない!」
我がままと言われようがガキと言われようが構うものか。花の心はたぎっている。マグマがふつふつと煮えている。
「花。なにも言わずにお前の前から消えないよ」
蓮の声に温度が戻っていた。
「お前とジェイを引き離すなんて真似、出来るわけ無い。浜田、俺はお前とも縁を途切れさせるつもりはないんだ。哲平ともな。だが最後の手段としては消えるしかなくなるかもしれない。お前たちとは切れなくても」
これ以上は話すことが無い。2人は茶を飲み干して立った。
「ジェイを蓮ちゃんに返さないとね」
「一緒に行く」
「もちろん」
蓮はエプロンを外してカウンターに寄った。
「ちょっと出てくる。携帯は持ってるから。すぐに戻ると思う」
「いいよ、こっちは任せておいて」
「悪いな、源ちゃん」
「俺は筆頭正社員だよ」
源は真っ白な歯を見せた。
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