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夜の密談
リビングに3つの折り畳みベッド。今夜はそうやって寝ようと言うとジェイが喜んだ。ただ、左を向く癖がある。だから一番奥、つまり窓側を陣取ろうとした。
「だめだ、お前は真ん中だ」
「どうして?」
耳に口を寄せる。
「朝一番早く起きるのは俺だろ? だから台所に近い方に俺が寝るから」
「分かった。浜田さん! 窓側に寝てもらっていい?」
ひそひそ喋ったかと思うところっと意見が変わったから浜田はちらっと蓮を見た。蓮が小さく頷く。
(なにか意味があるってことか?)
「しょうがないなぁ! 窓側って冷えるんだぞ」
「あ! ごめんなさい、じゃ俺が窓側で」
「うそうそ、ジェイを挟んで川の字ってのもたまにはいいよな」
「哲平さんと花さんとも川の字で寝たんだよ!」
「じゃ今日は違う顔ぶれってことだな」
「うん!」
『川の字で寝る』。ジェイのお気に入りだ。花の家に泊まる時もなるべく誰かと蓮と川の字になる。けれど蓮は自分の右側に寝るし、朝起きるとなぜか隣にいないのがジェイにとっては謎だ。実は簡単な話。いつも蓮が花に文句を言われている。
『夫婦だから隣がいいって言うんなら別室か廊下にでも寝てよ!』
だからジェイが眠った後、布団ごと壁際に寄せている。ジェイは壁の方を自然と向くから誰も抱きつかれるような被害を受けずに済んでいる。
ジェイがちょっと離れたすきに浜田に目配せした。
「なにかあるんでしょ」
「悪いな、ジェイが寝てからちょっと出かけてくる。薬を飲ませるから夜中に起きることは無いと思うが」
「大丈夫、俺そういうの敏いから。どこに行くか聞いてもいい?」
「……先のことを相談しに親父っさんのところに行ってくる」
「分かった。いいよ、こっちは。でも自分の寝る時間どうすんの?」
「それくらい大丈夫だ。明後日は土曜だし」
そこにジェイが戻ってきた。
「なに? 2人で内緒話?」
「そ、ジェイの悪口」
「うそだあ、2人ともそんなこと言わないよ……ね?」
浜田がわしゃわしゃと髪をかき回すから慌ててそばを離れる。頭を押さえてぷぅっと膨れ、蓮と顔が合うとひどく真面目な顔になった。
「いいよ、今日は取らない。それより薬飲め。興奮してたろ? ちゃんと眠れないと困る」
ジェイは素直に睡眠薬を飲んだ。
「おやすみなさい」
2人が横になったのを確認して蓮は明かりを消した。
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