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親父っさんはじっと蓮の目を見た。蓮はその視線をしっかり受け止める。
「分かった。どうしてほしいか言ってくれ。どうとでもしてやる」
蓮はほっとして体から一気に力が抜けた。反対されるまでは行かなくても説得されるような気がしていたからだ。
「助かります。本当はその手段を使わずに済むようにしたいんです。ですが、今回ばかりは最悪の状況を想定しておきたい。迷惑かけます」
「迷惑じゃねぇよ。そんな時に俺が浮かんで頼ってくれる。それがありがてぇよ。大将は去年言ったね。今後金銭的な援助をしてくれるなと。でもな、手をこまねいて大将やジェイの苦境を見てるわけにはいかねぇんだよ。いざとなりゃ約束なんざ反故にするつもりだ。だがこうやって来てくれた。それが嬉しいんだ」
「親父っさん……」
「聞きたいんだが。俺たちの力が必要ってわけじゃねぇのか? 出来ることならなんでもするよ」
「……訳あって実家と事実上離れなくちゃなりません。一歩間違うとジェイを壊しかねない…… それをなんとかしたいんです。でも親父っさんところのような組織に手を借りるわけには」
「多くを言わなくていい。分かった。ならヤクザの組織としちゃ動かねぇ。俺個人には? それもだめか?」
蓮は迷った。母のことがある。だからヤクザを介するのは困るのだ。けれどこの先を考えると親父っさんには一方ならぬ世話になるかもしれない……
「いいんだ、無理には聞かねぇよ。大将がそんな覚悟をするんだ、相当なことだろうと思う。言ってくれりゃそれでいい、俺の出来ることならなんでもやらせてもらうよ。……大将、聞いてくれるかい?」
「なんですか?」
「俺ぁな。偽善者だ。居場所のない若いもんを拾っちゃ世話してきた」
「親父っさん、それは」
「いや、聞いてほしいんだよ。俺は代々のヤクザの組長の家に生まれた。疑問を持ったこともねぇし、疎んじたこともねぇ。性に合ってる。要するに根っからのヤクザなんだよ。どう変わることもできねぇし、手段があっても多分変わらねぇだろう。だが……倅はそれを嫌った。無理に継がせるつもりは無かったんだ、他に後継者を立てればそれで済む。だが……あいつは単に嫌ったんじゃなかった。己の全てを懸けて俺たちを否定した。認めなかった。ヤクザをやめてくれ、俺はいやだ、その一言も言わなかった。……言っちゃくれなかった…… ただ消えたんだ、日本から。18ん時だ。3年も経った頃、ありさにハガキが1枚来た。どっかの寺にいるんだと。ありさは……ブータンとかなんとか言ってたが」
蓮には分かった。行き先が分からないんじゃない、親父っさんはしっかりどの国か分かっているのだろう。その寺についても調べたはずだ。だが……知らないことにした。
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