目から鱗

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   残念ながら蓮は今日宗田家でパーティーが開かれていることなど知らない。気が急いているからパッとエプロンの上から革ジャンを羽織った。今日は途中で一息つきたくて、外に出るために革ジャンを持って下りたままだった。 「源、悪い、ちょっと空ける! 帰りいつになるか分からん! ジェイが下りてきたら頼む!」 「あい…… 行っちゃったよ」  店は比較的混んでいる。それを振り返りもしないで飛び出して行った蓮に呆気に取られていた。すぐ眞喜ちゃんがキッチンに入る。もうジェイは上に上がってお母さんと過ごしているはずだ。 「眞喜ちゃん、すぐ伴に連絡して! ……之を呼ぼう」  今夜は生憎伴は非番だった。応援を頼まなくちゃどうしようもない。  車に飛び乗りすぐにエンジンをかけた。 (どうにかなるのか? 法的に戸籍から抹消できないって分かっているのに) ハンドルを握ったまま鉢巻を解いて頭を振る。髪はそれなりに落ち着いた。 「前にいるよ」 『すぐ出る』  2人はやたら息が合っている。年齢的にも風格としても負けず劣らずだ。しかも属性は同じタヌキ。迎えに来た大滝の車に落ち着いて、家を後にした。 「戸籍のことだって? まさか法を変えたなんて言うんじゃねぇだろうな」 「さすがにそれは。あの人はどういう人か見えないね」 「俺にもよく分からねぇ。腹が無い人間ってのは扱いようがねぇよ」 「全くだ」  この2人もパーティーだとは知らない。  花は華やかな笑顔を浮かべてワイングラスを片手に人の間を歩いていた。 (知らない顔ばっかり。どいつもこいつもお偉いさんって顔してるけどどういう集まりなんだ?)  チャリティとは聞いていたけれど、あまりにもいろんな分野の人間が多過ぎる。手元の名刺を見て、その業種の多さに呆れた。 (あ…… まさか……)  小出の顔が浮かぶ。 (もしかして戸籍のことをなんとかしたくて集めた? でもそんなの運に頼るしかないだろうに)  けれど確かに情報が手に入ったのだ。そこにどれだけの偶然が積み重なったことか。  小出が執念深く宗田家のことを探ろうとしていたこと。パーティーの招待券を手に入れるために、新聞社の部長が社用で出席できないのをいいことにコネを使ったこと。まさなりさんが小出に目を留めたこと。小出が心を開いたこと。たまたま面白話をしていた中に、役所で見かけたちょっとしたゴタゴタを口にしたこと。  大使館から来ていた夫妻と話をする。 (良かった、ドイツ語なら混じりっけ無しで喋れる) あれこれ言語が渦巻く花の頭では、時々言葉が入り混じってしまう。談笑している時に、蓮が到着した。  
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