家族

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   田中は哲平の前に胡坐をかいた。 「で、哲平。いったい何があった?」 「何って?」  ビールのグラスを口に、聞き返す。 「あんなの普通じゃない」 「俺もそう思う。河野さんがあんなに崩れるなんてよほどのことがあったんだろ?」  池沢も厳しい顔を見せる。相当飲んだはずだがそれがどうした、という顔だ。 「人間なんだからさ、いろいろあってもおかしくないでしょ」 「ね、意味ないわよ。どうせ知ってたって言う気ないんでしょ。へらへらしてたって哲平は口が固いもの。そうでしょ? 花」 「なんで俺?」 「哲平が知っててあんたが知らないわけないじゃない。私はね、今の河野さんを追い詰めない方がいいって思ってる。さっきの……今にも壊れそうだった」  哲平も花も言うわけにはいかないと心得ている。けれど何かあるだろうということはしっかりとみんなに伝わっていた。 「三途さん、ありがとう。河野さん次第だからさ、俺や哲平さんが代弁できることじゃない。ただ……」 「ただ?」 「みんなさ、ジェイを守っていれば河野さんは頑張れるから。それだけ覚えててくれればいいと思う。それからジェイには何も知られたくない」  尾高が呟いた。 「そうか……ジェイか」  その一言でみんなは分かった。何かは知らないが、何かがあるということ。そしてそこにジェイが絡む限り、蓮は死に物狂いになるだろう。 「俺たちが出来ることがあったら使ってくれ。理由はいい。いつでもだ。それが2人のためなら出来るだけのことをする。みんなもそれでいいか?」  田中がみんなを見回した。 「もちろんだよ。俺さ、蓮ちゃんのああいう姿見るの辛いよ……でも見せてくれたってことに意味あるって思うんだ。リオの言う通りだよな。蓮ちゃんはいつだって誰かのために頑張ってくれた。でも俺も蓮ちゃんのために頑張りたい」 「浜田だけじゃないさ。おんなじだよ。……不思議だよなぁ。俺今なんていうか……河野さんを甘やかしたくなってる。立場、そんなんじゃないのに。俺よりずっと大人の河野さんが今日は……だから使ってくれ、哲平、花。田中さんの言う通り、理由要らないから」  今の野瀬の言葉が全てだった。あの姿を忘れらるとは思えない。ただ助けたい、役に立ちたい。その思いがみんなの胸に溢れていた。河野さんを甘やかしたい。  
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