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「泊まったのは蓮ちゃんとジェイ。それから浜ちゃんと田中さん」
不思議な取り合わせだ。
「浜田? 田中?」
「もう心配し過ぎなんだよ、蓮ちゃんのことをさ。『哲平だって泊まるんだろ!』なんて、和愛がいるから当たり前なのにさ」
「田中さんは元気な顔見てからじゃないと帰れないって。浜ちゃんは二日酔いになってるだろうから世話するんだって出てかないし」
2人はさっきの話題を忘れた……のではなく、気遣いで避けてくれているのだと蓮は有難く思っていた。まさかそこまで素の自分を見せてしまうとは…… 一生の不覚とはこのことだ。だいたい、この状態の自分のそばになぜジェイがいないのか。
「ジェイは?」
「なに? ジェイが要るの?」
「要るって…… どうしてるのかと」
「水も飲ませてくれないで、とか?」
「この家では自力で水飲んで。花月にも花音にもそんなもん見せたくないからね!」
「いや、だからあれは寝ぼけて」
「寝ぼけて普段通り言ったってこと? まさかねぇ…… そんなこと聞かされるとは」
哲平のにやついた顔に腹が立つ。だんだんイラっとし始めた。
「うるさい! だいたい人が寝てる脇で雁首揃えて2人しているのが悪い!」
「出たぁ! 理不尽大王!」
哲平は嬉しそうだが花はかなりきつい顔をしている。
「いちゃいちゃすんのは自分ちでやってよ。ジェイは今子どもたち連れて公園。蓮ちゃんは人の快気祝いで酔い潰れて朝から病み上がりの人間に水要求して文句垂れてるってこと」
説明されて蓮は大人しくなった。確かに自分が良くない。
「悪かった。すまん、お前の言う通りだ」
「いいよ、貴重なもん聞けたから」
厳しい顔を見せていた花がついに吹き出した。
「我慢してたんだ、笑いたいの! 哲平さん、ずるいよ! 俺には笑うなって言っといて」
「無理だろ、あれは我慢できない! すごいよなぁ、口移しで飲むなんてさ、俺したことない!」
「俺もだよ。後でジェイをからかってやろう!」
「やめてくれ…… もうあんなに飲まない。くそっ、こんな醜態晒したのは初めてだ……よりによってお前たちに聞かれるなんて」
「録音しときゃ良かったよな、花!」
「ホント! 一生なごみ亭でただで食えたのに」
朝から散々な目に遭う。その分、本物の兄弟に近くなっていく。上とか下とかそんな隔たりが徐々に薄くなり、被って来た仮面も取っ払われ、素の蓮が見え始める。そこにいるのはからかい甲斐のある魅力的な男性だ。
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