『 弟 』

1/5

412人が本棚に入れています
本棚に追加
/210ページ

『 弟 』

   ちょっとだが花は面白くない。ちょっとだが哲平も面白くない。いつもの自分たちの『深い絆』の構成員は、[ジェイと蓮と哲平と花]だ。そこに誰かが割り込むとすれば、例えば親父っさんであったり、ありさであったり。納得がいく。1ミリたりとも文句は無いし、第一なにかを感じたこともない。  だが、浜田? なぜ? いつの間に? どうやって? 蓮の心に浜田が特別な存在として湧いて出た理由が分からない。  だが、『ちょっと』だ。そこは大人だし、蓮ちゃんが誰とどう絆を結ぼうとそこに口を挟む必要も権利も…… 「なんで!? いつの間にそうなったのさ! 俺、聞いてない!」 「花、お前になんで報告しなきゃ」 「俺も聞いてない。経緯(いきさつ)が見えない。どうして兄弟の中に浜田が入ってきたの? そりゃ、蓮ちゃんと浜田の間柄にケチ付ける気なんかないよ。でもさ、俺たちには特別な歴史があって」  浜田の視線が一瞬落ちた。それを感じた蓮は攻撃に転じた。 「浜田と俺との間に新しい歴史が始まった。それは俺と浜田の問題であって別にお前たちとの間がどうのこうのというわけでもない。俺はこいつが気になって仕方がない。ジェイとは違う意味で放ってはおけない。持つならこういう弟が……」  蓮の中でいきなり激情が溢れた。そうだ、自分は肉親という意味では母と結以外は繋がりが無いのと同じだ。そう自覚したのは最近のこと。しかもその母と結には現状を相談することすらできない……頼る相手でもない。ジェイが愛する人としても家族としても自分を求めたように、蓮の求めた『弟』は浜田だ。ジェイを愛した時のように、気がついたらそうなっていた。 「持つならこういう弟が良かった! 仲間とか絆とか愛とか歴史とか…… そうじゃないんだ、説明なんか出来ない、俺は浜田の人生に関わっていきたい、そう…… そう思ったんだ……」 「……分かったよ。蓮ちゃん、浜田、ごめん。さっきの言い方は無かった。俺の中に『権利』って意識があるなんて思わなかった。ホントにごめん」 「俺は納得はいってないよ。……でも文句垂れる前に蓮ちゃんの気持ちも浜田の気持ちも考えなかった。そこ、俺の我がままだった。なんかさ……なんか……」  ちょっと花の顔が赤くなった。 「要するに! ジェイにだけじゃなくって、蓮ちゃんに対しても独占欲が生まれてたってことに気がつかなかったの! 終わり!」  肝心の浜田は呆然としていた。自分から振った話だ。なぜ自分がいるのかと夕べからそんな目を向けられていたから蓮に擁護してほしかったのだ。けれどあれだけの思いを蓮からぶつけられるなんて……2人に対して申し訳ないような気持ちが溢れてきた。対抗するつもりなんか無かった。 「おれ……ごめん、花、哲平。割り込むとかそういう気無かったんだ。ごめん。蓮ちゃん大丈夫そうだし陽子待ってるし。俺、帰るね。心配だっただけだから。蓮ちゃんをよろしくお願いします」  
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

412人が本棚に入れています
本棚に追加