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立とうとする腕を掴んだ。哲平は本能の男だ。これは自分の失態だと思う。今浜田を帰しちゃいけない。
「座れって。そんな風になる必要なんてないよ。俺と花が無神経だったんだ。お前がそうなることじゃない。弟なんだろ? ならいないと。蓮ちゃんがいてほしいって顔してるしさ」
花は半分ブスッとした顔をしている。ギロッと浜田を見上げた。浜田が首を竦める。
「そういうことだから! だから……浜ちゃん。好み知らないけどコーヒーでいいか? なんかあったら言って。蓮ちゃんはコーヒー飲める? 他のもんが良かったら持って来る。哲平さんはコーヒーにするからね」
「なんか、って、俺、いていいの?」
「いいに決まってるじゃん! 俺がいいって言ったらいいの! ここのテリトリーの主導権は俺が握ってんだから。……今度いろいろ話そうよ。でも、今度。いい?」
浜田は首を何度も振った。花や哲平が受け入れてくれるとは思わなかった。
「蓮ちゃん、少しは落ち着いた?」
哲平が起き上がろうとする蓮を見て、真理恵にありさからもらった座椅子を借りた。水をもらった蓮はそれに座っている。まだ味のあるものを欲しくない。さっきまで怒鳴るような口調だった哲平も花も、蓮を気遣って穏やかな声になった。
「あんなに泣くなんてな…… みっともないとこ見せた。次、どんな顔をしたらいいんだか」
「そんな心配は要らないよ。あの時いた連中の中でそんな風に思ったやつはいなかった。みんな心配してたよ。だから田中さんだって残ったんだ」
「初めてだったからね。蓮ちゃんの生の姿見たの。ほとんどみんな泣いてたよ。中山さんだって泣いてた。何があったかなんてあれこれ聞くヤツもいなかった。ただ蓮ちゃんが心配なのと自分たちに出来ることがあるなら言ってくれって。みっともないなんて言わないでよ。それだけ重かった。重い涙だったって俺は思ってる」
花の言葉で啜り泣きが出た。浜田だ。
「俺も辛かった…… 人の心配ばっかしててさ、みんなのこと一生懸命考えててさ、でも俺たちにはそれが当たり前っていうか……相手が蓮ちゃんだからそういうもんなんだって、そんなバカげた習慣がついてたんだって思い知らされたよ。弟なんて言ってもらえたのに俺もおんなじなんだ。『兄貴』のこと、ちゃんと真正面から見てないし考えてないって……そう思ったんだ」
花にも哲平にも今の言葉で充分だった。
「浜ちゃん、さっきの俺の態度、多分先入観もあったんだと思うよ。悪かった。ちゃんとお前のこと見てなかったのは俺の方だ」
「……俺もね。哲平さんに以下同文。しばらくは俺のこと我慢して。受け入れ幅そんなに広くないから」
「だよな。お前って蓮ちゃんとジェイのことだってうじうじ考え込んだんだから。それで、肝心なことなんだけど」
蓮には哲平がそこで言葉を区切った意味がなんとなく分かった。
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