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「浜田にも言うのか、それを聞きたいんだろ?」
「うん、そう。そこで垣根を作る蓮ちゃんじゃないでしょ。『弟問題』に言及したってのはそこもあるんじゃないの?」
「え、なんか俺聞いていい話なの? 重い話ってヤツなんでしょ? そんなとこに俺なんかが入り込んで」
「浜ちゃん。今度『俺なんか』って言ったら寝技かける。もうその言葉禁止」
「はい!」
哲平はくすっと笑った。
(そうか……これもあるんだな。浜田ってどっかジェイと似てるじゃないか。こんな素顔見たこと無いし。でもって天然だし。言っちゃ悪いが蓮ちゃんの実の弟とは対極の存在なんだろうな)
「聞いてほしいって、俺がそう思ってるんだ。花、ジェイはもう戻って来る頃か?」
「ううん、お昼3人にお年玉代わりにご馳走するんだって言ってたからまだ帰ってこないよ」
花の家ではお年玉を渡すことは禁止になっている。家の外でのことには口を出さないが、少なくともこの家の中でのお年玉のやり取りはだめだ。花月と花音が貰っていい相手は、両親と祖父母からだけ。花にも真理恵にも親同士のお年玉のやり取りになんの意味があるのか分からない。小さい子どもがいきなり大金を持つという風習がいいことだと思えない。
「そうか、ならいい。浜田、これは俺の家の確執の話だ。俺の実家のことは知ってるか?」
「コーノソリューションズのこと? 知ってるよ、有名な話だし」
「そうか。俺は母親と妹を除いて実家とは親父が健在だったころから上手く行ってない。俺の生き方そのものが気に入らないんだよ。それを責める気は今の俺には無いんだ。いやなら関わらずに生きて行けばいい、そう思っている。でも弟……実の弟の諒はそうは思ってない。元旦に電話で言われたんだ。ジェイを籍から抜いてくれって」
浜田は背景そのものに驚いたが、花と哲平は違うところにカッとなった。
「元旦? 元旦にいきなりだったの? なに考えてんだよっ!」
「ふざけた話だな…… 仮にも弟だってのに実の兄にそれって…… 蓮ちゃん、それもあったんじゃないの? 寂しくなったんでしょ。ここであったかいやり取り見てさ、自分の兄弟との落差を感じて。ジェイに言えない以上蓮ちゃんには気持ちを吐き出せるところが無い。他でもない、自分の弟のことだからさ」
哲平の言ったことが素直に受け入れられた。確かにそれが事実だ。
「俺…… 分かるよ。俺には兄貴いるけど俺の実家には俺は要らない存在なんだ。俺が行くと不愉快な気分にしかさせないから長いこと行ってない。名前思い出すのもイヤなんだろうって思ってる。兄貴はそこまでじゃないけど、でも親との仲立ちをしてくれる気ないし。最後に声聞いたのいつだったかも覚えてないよ」
「浜ちゃん、知らなかった…… 俺ひどい扱いしてきたよな」
「いいんだ、花。それで良かったからこれからも変わんないでくれた方が俺は嬉しいし。じゃ、蓮ちゃんはどうすんの? だからって籍から抜くつもりなんかないでしょ?」
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