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「欠片も考えてない。ジェイは俺のものだ。俺の大事な家族だ。あいつにとっても俺がそうだと分かってる。一番家族でいるべき相手なのにどんな理由であろうとそれを拒まれる謂れはない」
「それじゃだめなの? NOって言うだけじゃ」
「相手はね、ジェイの籍が抜けなきゃ何するか分かんないんだよ。一番これを知っちゃいけないのはジェイなんだ。あいつ、これ以上精神的になにか起きたら壊れる。自分で分かってないだけなんだ、今崖っぷちに辛うじて立ってるってことがさ。あいつに何か起きたら……」
花の目に宿っているのは激しい怒りの炎だ。哲平は自然に力のこもった花の腕に手を置いた。花からすぅっと力が抜けていく。
「そうならないように手立てを考えなくちゃならない。今はそこで話が止まってる。方法が見つからないんだ。蓮ちゃん、西崎先生に相談するんでしょ?」
「そのつもりだ。明日電話する」
「じゃまずその結果を待とう。当面、具体的になにか出来ることある?」
哲平は長男らしい態度を崩さずにいる。蓮が崩れている今は自分が冷静でいなければならない。それでなくても花はカッとなりやすい。こうしてみると、蓮の心のケアというポジションに浜田がいてくれることは有難いかもしれない。
「アイツがどうする気か分からない。だから具体的にというと何が出来るとも。ただ万一店に来たらジェイは家に行かせる。会わせない」
「俺さ、悪いけどあの人信用ししてないから。あの時のこと、俺がジェイをマンションに送った後あの人がジェイを待ち伏せしてたって話、後から聞いたよ。事が治まるまでジェイを1人で外に出さないでもらえるかな」
あれで……ジェイは自分のことを忘れた。記憶から消した。
「ジェイは1人で外に出たがる方じゃない。それは今までに自分に起きたことが原因だろうと思うが。だから出なくちゃならない時は誰かと一緒にする」
「他に無い?」
「……俺の母のことなんだが。22日に検査入院するんだ。どこが悪いのかまだはっきりしてない。……そうか、それもあるのかもしれない。俺が母さんの遺産を狙ってる、そう言われた」
「きったねぇヤツ!」
「大丈夫なの? お母さんの具合」
「分からない。でもジェイがそれを知ったらと思うとゾッとする。あいつが『母親の入院』というのに耐えられるとは思えない。諒がジェイを待ち伏せして言ったのも『母さんがお前のせいで病院で死にかけてる』ということだった。それであいつは……俺の記憶を消したんだ」
「知らないところでこんなにたくさんの大変なことがあったんだね。哲平が『歴史』って言った意味が分かったよ。その歴史に俺も踏み込んで大丈夫なんだね?」
「俺はお前が本当は口が堅いヤツだって知ってるよ。俺はお前にいてほしいと思ってる。何かしてくれって、そういうんじゃない。けど正月お前がずっとそばにいてくれて俺はほっとしたんだ」
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