412人が本棚に入れています
本棚に追加
/210ページ
郁子に再度向き直った。
「郁子さん。諒の兄として言う。母さんのことは利恵さんに任せたい。言いたいことがあれば俺に直接言うように諒に伝えてほしい。陰に回ってコソコソするんじゃなくてな」
「お兄様が……お兄様が悪いんじゃないですか。あの人はいったいどういう人なんですか!? なぜ戸籍に」
「俺との関係なら諒に聞けばいい。帰るところだと言ったな。なんなら家まで送ろうか?」
「結構です、1人で帰れます!」
「良かった。じゃ利恵さん、あとは頼むよ」
「はい、蓮司さま」
「蓮司、戸籍って!?」
晶子は初めて聞く話に動転してしまった。『諒』『戸籍』となれば、それはジェイに関わることだ。
「母さん、今は話している時間が無いんだ。行くよ」
廊下を急ぎ足で歩きながら店に電話をかけた。誰も出ない。焦燥が蓮を襲う。今度は源にかける。出たのは伴だ。戸惑っているような声。
『俺、伴。今変なことになってて……蓮ちゃんの弟って人が来てるんだけど、ジェイに会わせろって。源が対応してるけどどうしたらいい?』
「絶対に会わせるな! ジェイはまだ上で休憩か?」
伴の声がいっぺんに引き締まった。
『上だよ。連絡しようかと思ってたところ』
「ジェイには言うな、誰か上にやってくれ、俺が帰るまで家から出すな」
『引き受けた。大将、事故を起こさないように帰ってくれよ』
「努力する」
(くそっ、俺が母さんのところに行くのを見越したんだな。……もう限界だ。お前を弟とは思わん!)
約束を思い出す。走りながら電話をかけた。
「俺だ」
『どうしたの? お母さんのお見舞いは?』
「それどころじゃなくなった。諒は今なごみ亭にいる」
『なんだって!?』
「お前は俺と一緒にいることになってる。だから動くな。約束だから連絡しただけだ。ジェイのことは源と伴がなんとかしている。ジェイも諒が来ていることを知らない。だから心配ないと思ってる」
『それにしちゃ切羽詰まった声してるよ。分かった。俺は動かずにおく』
「おい、哲平は管理職だぞ。哲平を動かすなよ、まだ就業中だ」
『分かってるって。俺は補佐なんだからさ。そういう心配は要らないから蓮ちゃんはジェイのことだけ考えて』
「ありがとう。じゃな」
電話が切れて、花は携帯を見つめた。
「どうする……?」
あれこれ考えて、電話をかけた。
「もしもし、俺! 頼みがあるんだけどな」
最初のコメントを投稿しよう!