限界

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   郁子に再度向き直った。 「郁子さん。諒の兄として言う。母さんのことは利恵さんに任せたい。言いたいことがあれば俺に直接言うように諒に伝えてほしい。陰に回ってコソコソするんじゃなくてな」 「お兄様が……お兄様が悪いんじゃないですか。あの人はいったいどういう人なんですか!? なぜ戸籍に」 「俺との関係なら諒に聞けばいい。帰るところだと言ったな。なんなら家まで送ろうか?」 「結構です、1人で帰れます!」 「良かった。じゃ利恵さん、あとは頼むよ」 「はい、蓮司さま」 「蓮司、戸籍って!?」  晶子は初めて聞く話に動転してしまった。『諒』『戸籍』となれば、それはジェイに関わることだ。 「母さん、今は話している時間が無いんだ。行くよ」  廊下を急ぎ足で歩きながら店に電話をかけた。誰も出ない。焦燥が蓮を襲う。今度は源にかける。出たのは伴だ。戸惑っているような声。 『俺、伴。今変なことになってて……蓮ちゃんの弟って人が来てるんだけど、ジェイに会わせろって。源が対応してるけどどうしたらいい?』 「絶対に会わせるな! ジェイはまだ上で休憩か?」  伴の声がいっぺんに引き締まった。 『上だよ。連絡しようかと思ってたところ』 「ジェイには言うな、誰か上にやってくれ、俺が帰るまで家から出すな」 『引き受けた。大将、事故を起こさないように帰ってくれよ』 「努力する」 (くそっ、俺が母さんのところに行くのを見越したんだな。……もう限界だ。お前を弟とは思わん!)  約束を思い出す。走りながら電話をかけた。 「俺だ」 『どうしたの? お母さんのお見舞いは?』 「それどころじゃなくなった。諒は今なごみ亭にいる」 『なんだって!?』 「お前は俺と一緒にいることになってる。だから動くな。約束だから連絡しただけだ。ジェイのことは源と伴がなんとかしている。ジェイも諒が来ていることを知らない。だから心配ないと思ってる」 『それにしちゃ切羽詰まった声してるよ。分かった。俺は動かずにおく』 「おい、哲平は管理職だぞ。哲平を動かすなよ、まだ就業中だ」 『分かってるって。俺は補佐なんだからさ。そういう心配は要らないから蓮ちゃんはジェイのことだけ考えて』 「ありがとう。じゃな」  電話が切れて、花は携帯を見つめた。 「どうする……?」  あれこれ考えて、電話をかけた。 「もしもし、俺! 頼みがあるんだけどな」  
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