ディフェンダー・ストッパー

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  「君、いい加減にしてくれないか。私はジェロームに会いたいだけなんだ」 「言ったでしょ、風邪引いて病院に行ってるって。あいつに電話してもらったの聞いてたでしょ?」  伴のことだ。もちろんジェイに電話などかけちゃいない。独り芝居というヤツ。疑いようのない受け答えに聞こえたが伴に取っちゃたいしたことじゃない。 『こうの、じぇろーむ、です。下の名前はカタカナです。……そうですよ、もう一時間くらい経ってるんですけど。……今ですか、診察室入ったの! ……混んでんのは分かったから。薬ってすぐもらえるんですか? ……近くの薬局でもらえる…… 処方箋は4日有効なんですね? ……分かりました。じゃ本人にメールします、すぐ帰るようにって。大事なお客さんが来てるんですよ。……ほんとですか? 助かります! よろしくお願いします!』  そして伴は看護師さんが親切にも伝言を伝えてくれるそうだ、と諒に告げた。 「そんなに遠い病院じゃないですから。もうじき帰ってきますよ。なんか飲みます?」 「いや、いい。兄は何時ごろ帰ると言ってたかな?」 「6時過ぎますね。2月頭にデカい宴席が入ってるんですよ。先方とメニューの詰めをしてくることになってるんで」 「そうか」  実は奥方の郁子は何度か夫に電話をかけ、メールを入れている。蓮が晶子のいる病院を出たという連絡だ。だが幸か不幸か諒は携帯の電源を切っていた。仕事は専務に任せてきた。この話が終わるまで仕事で呼び戻されたくはない。そして兄の戻りが遅いということ、もうじき『あいつ』に会えるということで携帯の存在をすっかり忘れている。  蓮は駐車場に車を滑り込ませ、慌ただしくロックして店に向かった。まだ3時50分。表には張り紙がしてある。 『お客様各位 大変ご迷惑をおかけたします 本日の営業は5時からとさせていただきます 店主』  勢いよく入り口を開け、諒が振り返る間もなく椅子から引きずり上げた。 「あ、兄貴、遅くなるって」 「なんの話だ。何しに来た、俺のいない隙に」  諒は源を振り返った。源は涼しい顔をしている。 「おかえんなさい。マスター、思ったより早かったですね」 「源、助かった」 「奥の座敷にどうぞ。なんなら俺たち外に出ますんで」 「悪いな、そうしてくれ。みんなで美味いコーヒーでも飲んで来い」 「あいよ! 眞喜ちゃん、匠ちゃん、凛子ちゃん、マスターの奢りだ、行こうぜ」  
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