ディフェンダー・ストッパー

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   さっさとみんなが出て行った後、蓮は入り口に鍵をかけた。 「話を聞こうか。ジェイになんの用だ」 「なにって、決まってるだろ。なんで籍に入ったのかを本人の口から聞きたい。財産目当てじゃなけりゃ籍から出たっていいだろう。そうしてくれと言いに来た」 「あいにくだな。あいつの窓口は俺だ」 「じゃ、3人で話そう。俺もその方がいい」 「御免だ。そう言ったはずだ、同じ話を蒸し返すな」 「じゃこのままってことか!」 「そういうことになるな。何を焦ってる? なんで財産、財産と連呼するのか分からん」 「普通のことを言ってるんだ、誰だってそういうことを真っ先に考える」 「お前の価値観が基準か? 俺たちを一緒にするな、そんなもんに俺たちは興味もないんだ」 「どうあっても会わせない気か?」 「どうあってもだ」  諒が要らぬことを言う。 「興信所を使って居場所を突き止めても」 「俺ならそんなことはやらん、身の安全を考えるなら」 「……脅すのか? 実の弟を」  蓮は鼻で笑った。 「実の弟? 笑わせるな、お前が弟(づら)するのは金の話の時だけだ。単なる脅しだと思うならやってみろ。俺はお前の会社に乗り込むだけだ。俺が男と結婚してるって公表するためにな」 「兄貴だって困るだろう! バレれば自分の商売にだって差支え」 「無いな。俺は隠してない。常連客は知っている。俺の元いた会社の連中も知っている。俺には怖い物なんかないし失うものも無い。お前と違ってな」 「兄貴は昔っから家族を優先したことが無い!」 「俺にとって家族は母さんとジェイと仲間たちだ。俺にはたくさんの家族がいるが、そこにお前は入っちゃいない」  結局、諒は何を得ることもなく蓮と喧嘩別れをした。決まりきった言葉、『これで終わりじゃないからな!』という言葉を残して。  怒りに身を包まれた蓮は、スタッフルームにある業務用の塩の袋を引っ掴んで諒の後を追った。肩を掴んで力任せに振り向かせ頭から袋の塩をぶちまける。低い声で唸るように言った。 「二度と面見せるな。次はお前の会社に行く」  道行く人々が何ごとかと足を止めた。動じない蓮を睨んで諒は塩を払いながら駐車場へと急いだ。  店に戻って荒い息を治めようと冷たい水を飲む。 (いくらなんでもガキっぽかったか) ちょっと苦笑する。でもスカッとした。溜飲が下がったのは確かだ。    
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