ディフェンダー・ストッパー

10/30
前へ
/210ページ
次へ
   披露宴の時にはみんなでワイワイしながら来た。ほとんど敷地内も建物も見ていない。 「あのさ……」 「なに?」 「花って、ここで育ったんだよな」 「うん、そうだよ」 「……お坊ちゃまだったんだ……」 『ご子息』という言葉が、この建物にはぴったりだ。広い庭。親父っさんの樹木が多い庭とは違う、芝生と広々とした空間。真っ白な建物。奥の方に見えるのは尖塔じゃないだろうか。日本には無いような洋式の建物に生まれれば普通の人間には育たないだろう。 「でもあいつ、普通にイジワルだ。……違った、普通以上にイジワルだ。……そうだった、お洒落だ。偉そうなのは金持ち特有だ……違う、あいつの地だ、あれは」  支離滅裂な言葉が出てくる。 「どうしたの? なにぶつぶつ言ってるの?」 「わ! なにやってんだよ!」 「なに!?」 「お前、今チャイム押したろ!」 「もちろんだよ! いきなり開けたりしないよ!」 「心の準備が出来てない……」 (どうしちゃったんだろう、浜田さん、変!) ジェイには浜田の反応がよく分からない。  ドアが開いて夢さんが可愛い声をあげた。 「ジェイ、いらっしゃい! あら、お客さまがいらしたのね」 「浜田さん。花さんと一緒に働いてるんだよ。とってもいい人なんだ」 「まぁ! とにかくこちらへどうぞ」 「あの、靴は」 「そのままでいいんだよ。誰も脱がないよ」 (……映画みたいだ)  平気な態度をしているジェイはハーフだから自然なままで充分似合う。でも自分は……  踵をそっとつけて歩いた。靴底はきれいだったか。歩きながら床を傷つけてないか、そんな心配が頭を掠めている。花は靴のままがイヤで自分用のスリッパを使っているが、それを聞いたら浜田も上履きを持って来れば良かったと後悔するだろう。  ソファの手前にまさなりさんが立っている。 (うわ、背、高ぇ…… 花そっくりだ。でもあんなキツい顔してない) 「いらっしゃい! お友だちも一緒なんだね」  ゆめさんが口添えした。 「花の同僚の方なんですって!」 「それは…… 花は元気ですか!?」 「まさなりさん、一昨日花さんの家に行ったんでしょ? 電話で花さん、そう言ってたよ」 「でも今日の花じゃないんだよ。人は日々変わるものだ」 「花さんは大丈夫だから」 (やっぱ普通じゃねぇ……) 呆れるよりは感心している。  
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

411人が本棚に入れています
本棚に追加