ディフェンダー・ストッパー

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   花は(やれやれ)という気持ちで電話を切った。 (なんで父さんに話を持ち込んだんだか…… 父さんはジェイのことになると甘いからなぁ……)  自分のことは気にならないのが人間……花だ。いつもながら自分がいかにジェイに甘いかはあまり分かっていない。 『素直に甘えてくれるジェイは、私に安らぎをくれるんだよ』  そう言っていたことを思い出す。父には分からないようだが、花にはその根源が分かっている。自分だ。甘えたことなどない。孫たちが甘えるのとは違う。今思えば、きっと一番甘やかしたかったのは自分なのだろうと思う。 『花の望む通りに』  あれはその究極の言葉だったのかもしれない。けれど自分はあの言葉に反発しか感じなかった。  花は望む通りに与えられることに愛を感じることが出来なかった。望まなくても包んでくれる愛がほしかった。  両親は初めて持った子どもにきっとどうしていいか分からなかったのだろう。けれど子どもは親に完璧を求めるものだ。  親は最初の子どもには常に一年生なのかもしれない。けれど子どもにとっては親は正しく在るべき存在で、正しいに決まっている存在だ。そこに悲しいすれ違いが生まれた。 『初めての子どもだから分からない』 『どう接すればいいか分からない』  花にとってそれは言い訳にもならないことだった。親は子どもが生まれて成長する。けれど子どもにとっての親は、すでに人生の先駆者なのだから。  だから感じる。親子としての大きなトラブルを経てやっとそれなりの大人になった父と母は、今こそ甘えてくれる相手が欲しいのだと。だが花はもう無理だ。  ジェイを『きみも私のマイボーイだよ』と父が言った時がある。自分と対極のジェイは、自分とは違う形で両親を幸せにしている。その『マイボーイ』が望むことならなんでも叶えたい。『マイボーイ』に関わることなら全力をあげて取り組みたい。素直に『ありがとう!』と笑うジェイは、自分がなれなかった息子の姿なのだと思う。 (浜ちゃん、これ、俺が反対しても無理かもしんない) 今、花は真理恵の運転する横でそう考えている。制限速度をマイペースで守る真理恵に多少イラっとした目を向けながら。 「花くん。安全第一。目だけで文句言っちゃだめ」  
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