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寝正月
寝込んだままの正月など初めてだ。
どうやら熱は治まりつつあるが、まだ平熱というわけじゃない。37.6度。ジェイは37.1度。あるとは言えないような微熱だから浜田と一緒に動き回っていた。蓮も少しはやろうとするが、ジェイにも浜田にも止められる。
「河野さん。正月っから怒りたくないから。だから大人しく寝ててくれる?」
そう言われてしまえば2人に任せるしかない。そっぽを向いて、ベッドにもそもそ戻り毛布を被った。
「だめ! 毛布被んの、良くないよ。蓮は不貞腐れるとすぐ毛布被るんだから」
「そうなの!? 他には? 河野さんって……いや、蓮ちゃんって他にどんな癖ある?」
「あのね、内緒で教えてあげるね。イライラすると髪の毛かき上げるんだよ。何度もかき上げるとうんとイライラしてるってことなんだ」
ひょこっと毛布から頭を出す。
「俺、そんなことしてるか?」
「今はそうでも無いけど、オフィスにいた時はよくやってたよ。何度もやってる時は俺、そばに行くのやめたもん」
「なんだよ、そういうの教えといてくれよ」
浜田が口を尖らせて言う。
「あ、浜田さん、よくそういう時に蓮のそばに行ってたよね。可哀そうにって思ったこと何度もあった」
初めて聞く自分の癖。全然気づかなかった。
「他にはね、バスルーム」
「ジェイ! そこでやめろ! 浜田もそんなこと聞きたくないぞ」
浜田は急いで頷いた。聞いてみたいがそれはまずい。きっと蓮ちゃんは何度も髪をかき上げるだろう。
「掃除するとき鼻歌歌ってるって言おうとしただけなのに」
お節は美味しかった。雑煮も作って来てくれていたからジェイに餅を焼いてもらう。蓮は焼いた餅を入れた雑煮が好きだ。まだ食欲が完全に戻ってないからそれほどは食べられない。
「しょうがないよ。きっと夜には食べられるって」
浜田のなぐさめを聞いて蓮は(あ!)と気づいた。
「お前、今日一日ここにいるつもりか?」
深読みした浜田。
「ごめん! そっか、元旦だから2人の時間だって過ごしたいよね。気がつかなくて」
「違う、お前と陽子! 初詣でとか一緒に行かないのか?」
「ああ、それならいいってことにしたんだ。どうせ俺は初詣でっていつも行かないし、陽子もどっちでもいいって言ってくれたから」
「ばか、行っとけ。つき合ってから初めての初詣でなんだ。陽子は本当にどっちでもいいって思ってるのか?」
「…………」
「な、俺たち本当に有難いと思っている。お前と一緒の時間もすごく楽だ。ジェイはどうだ?」
即答が返る。
「俺もすごく楽しいよ! 浜田さんといると蓮が怒るの少ないし、浜田さんも怒んないし」
「そこか! 俺の言ってるのはそうじゃなくて」
「うん。すごく楽しいんだけど、井上さんのこと優先した方がいいって思う。お義母さんがいるから長い時間離れられないだろうけど、初詣でに行くくらいは時間取れないのかな。きっと井上さん、我慢したんだと思うの」
自分は慣れているからさほど考えなかった。けれど、そう言えば忘年会で叫んだ時、『初詣でも一緒に行きたい』そう言っていた……
「俺、電話してみる!」
「奥の部屋で電話すればいい。俺たちが聞くことじゃないし」
「ありがとう!」
急いで寝室に向かう姿が微笑ましい。
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