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「……どういう?」 「知っているから、『五十嵐 耀』の家から出掛けて帰って来る。でも、朔はどうして自分がそうするのかわかっていない。考えない」  余計わからん。いつのまにか俺の頭が悪くなったとでもいうのか?  ……とりあえず、別方向から。 「君は。君はなんで、その」 「何故、二人のことを知っているのか?」  相変わらず不思議な抑揚(よくよう)をつけて訊く彼。 「う、うん」 「おれは二人を繋ぐものだから。おれが居なければ、耀は朔にはならない。朔は出て来られない」  この子がスイッチってことか? いや、スイッチというよりはバトンの方が的確なんだろうか?   ──ダメだ、やっぱりよくわからない。  「もともとこの身体は、名前の通り耀のものだった。でも『素直で可愛くて優秀で真面目な』耀が、無意識のうちに抑えつけていたものが朔を生み出した。おれはただ、その橋渡しをする存在」  素直で可愛くて、優秀で真面目な。  それは確かに、俺の知っている耀くんだ。  お父さんを早くに亡くして、お母さんの愛情と、……期待も何もかもすべて一身に受けて。「周りが己に望む理想」らしきものを先読みして体現しようと?  まだ十五やそこらの男の子が、必死で背伸びしながら藻掻(もが)いて生きていたんだろうか。  それがある日、とうとう堪え切れずに(あふ)れてしまった結果ってことなのか……?
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