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彼と並んでほぼ無言で足だけ動かして、目的のカフェに到着する。
なかなかに気まずい時間だった……。
カウンターでそれぞれの飲み物をオーダーし、受け取ったカップを載せたトレイを持ちテーブル席へ向かった。
当然、支払いは俺だ。言うまでもない。
「どうぞ」
勧める俺に耀くんは軽く頭を下げて礼を言ってはくれたものの、目の前に置かれたカップに手も伸ばそうとはしなかった。
「先生も僕が英深学院を目指してるのは、母がそれ以外の道を許さないからだって思われますか?」
しばしの沈黙を破った耀くんの、真剣な硬い声。
「いや。……まあ正直、最初はそう思ってた。小島教授に紹介されたときから、初めて耀くんのお家に行くまではね」
俺の言葉に、耀くんの顔の強張りがほんの少し和らいだ気がする。
「……今は違うってこと、ですか?」
「うん。耀くんとお母さんと初めてお会いして話した時、お母さんは『英深じゃなくてもいい』って言いたそうな感じがしたんだ。耀くんが行きたがってるから家庭教師も頼んだし受験するのは構わないけど、そんな無理しなくていいのに、っていうか。──もちろん、単に俺の印象なんだけど」
彼の探るような問い掛けに、俺は慎重に、しかし正直に打ち明ける。
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