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「先生、これでいいですか?」  家庭教師先の生徒に声を掛けられて、ぼんやりしてた俺は慌てて彼の指すノートに目を向けた。 「え、ーっと。うん、できてるよ。あ、ただこれ、ちょっと字が読みにくいから気をつけて。正解なのに、読めなくてバツにされたらつまらないからね」 「あ! はい、わかりました。僕、元が汚い字だから注意してるつもりなんですけど、つい急ぐと気が回らなくて」  素直に謝って反省している耀(よう)くん、……五十嵐(いがらし) 耀に、俺はごく普通に返す。 「いや、耀くんの字って汚くはないだろ? 美文字かどうかはともかく、読みやすいし十分きれいな字だと思うよ」 「そうですか? そう、かなぁ。でも、ありがとうございます」  はにかんだように笑う彼は、中学三年生にしては少し幼く見えた。  特に童顔というわけではない。メタルフレームの眼鏡の影響もあってか、普段はむしろ落ち着いた印象を与える方なんだけど。 「牟礼(むれ)先生、ありがとうございました。受験までよろしくお願いしますね」  決まった授業時間を終えて耀くんと一緒に玄関に向かった俺に、リビングから出て来た彼のお母さんが丁寧に頭を下げてくれる。 「耀くんは本当に優秀ですから。僕の力なんて微々たるものですけど、精一杯尽くします」  お世辞ではなく本心からそう告げて、俺は五十嵐家を辞した。
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