70人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「不安があったら俺にでも塾の先生にでも、……そうだな、もし信頼できる先生がいるなら塾の方がいいかもな。受験についてはそれこそプロなんだし。とにかく、一人で思い詰めても何もいいことなんかない。吐き出すだけでもいいから誰かに相談して」
柄にもなく『先生の顔』で宥めるように言い聞かせる俺に、耀くんは一瞬俺の目を見てすぐ俯いてしまう。
次に顔を上げたとき、彼は思い切ったように口を開いた。
「先生、もう少しお時間構いませんか? ここじゃなくて、もっと誰もいないところで聞いて欲しいことがあるんです」
断る選択肢は俺にはない。もう事態は動き出した。
アクセルを踏んだのは、俺だ。
「わかった。そうだな、店だとどうしても人はいるし。……線路沿いに歩いたところの公園は? 遊具が無いから小さい子連れも居なさそうだし。木が多くて野球やサッカーもできないから、小中学生もいないだろ。どう?」
そもそも「木が多くてボール遊びができない」のではなく、「禁止されてるボール遊びが後を絶たないために、景観は無視して仕方なく木を植えた」という話らしいが。
まあそれはどうでもいいか。
「はい。それでいいです」
生真面目に返して来た耀くんに、俺は頷きで答えた。
最初のコメントを投稿しよう!