70人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「先生。……今から僕が話すことは、誰にも言わないでいただけますか?」
向き合うでもなく、横並びでもなく。俺より斜め半歩前に同じ方向を向いて立つ彼が、振り向かないままに口火を切った。
俺は今、試されている。俺がそう受け止めたことを、耀くんもわかっている、筈だ。
「……、……言わない。俺の信用に賭けて、絶対に口外しない」
俺の信用なんてものにどれほどの価値があるのかは自分でも疑問だが、耀くんは納得してくれたらしい。
「今朝、起きたら、……。……あの、目が覚めて起き上がって、ベッドから立ち上がろうとしたら、床に、……。半分ベッドの下に潜るみたいな形で、あ、あの──」
言いにくそうに、ひとつひとつの言葉を強引に絞り出すかのように話そうとする耀くんに、俺の方が心苦しくなって思わずストップを掛けてしまった。
「耀くん、どうしても打ち明けるのが辛いんなら無理しなくていい。誰にも言わないって約束しただろ? つまり、聞いても聞かなくても俺の中だけの問題なんだから」
一歩踏み出した俺は、耀くんの見るからに力が入った肩を軽く抱くようにしてそのまま公園の少し奥へ歩を進める。
目指す石造りのベンチの前に着くと彼を促し、少し隙間を開けて並んで腰掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!