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ベンチの座面を彷徨うように撫でている、……何か縋るものを探り当てようとしているかのような彼の手の甲を上からそっと握る。
はっとしたように俺に顔を向け、そのまま固まったかのように数十秒。
戦慄くように震える耀くんの唇から、言葉が滑り出た。
「ナイフ、……。お、折り畳み、の、小さな、ナイフ、が。ベッドの下、に、落ちて、……」
「!」
咄嗟に洩れそうになった声を、精神力を振り絞って押し止めた。よくやった、俺!
──自画自賛してる場合じゃないんだが、くだらない茶々入れでもしてないとこの耐え難い緊迫に俺まで叫び出したくなるんだよ。
俺たちを包む、すさまじい緊張を孕んだこの空気に。
「僕、僕は本当にそんなもの持ってませんし、興味もない、なかったんです。本当に、先生」
涙の膜が張った、レンズの向こうの揺れる瞳。縋るような声。
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