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首筋にぴたりと当てられた刃は、そのまま動かない。
ただじっと止めているわけではなく、柄を握った手を引いて切り裂こうとする耀くんと、それを押し止めようとする何か、誰か、……朔、が闘っている。
見えない火花が散るようなその緊張感が、少し離れた場所から見ている俺には手に取るように伝わって来た。
──どうしてわかるんだ。俺もどうかしてる、ってことなのか?
止めるべきなんだろうか。いや、他人が入ったことが悪い方向に作用したら。頭ではあれこれ考えつつも、俺はその場から動けない。
一触即発の空気が漂っている。
そのままいったいどれくらい経ったんだろう。
まだ空は朱い。おそらく俺の体感に反して、実際にはほんの僅かな時間だった筈だ。
ぱたん、と聞こえる筈のない音を耳が拾った気がした。それくらい機械的に、耀くんの右手がまた脱力して身体の横に下がる。
ナイフを持ったまま。
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