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俺の前では、途切れることなく『会話』が繰り広げられてた。
頭の、あるいは心の中のじゃない。現実に、物理的に同じ口から吐き出される、同じ、……でも異質な声。二人分の。
「そうだ。五十嵐 耀。この身体の名前」
「オレ、……僕、だ。耀は、ぼく……」
耀くんが混乱している様子が手に取るように伝わって来る。
「耀。朔は今どうしている?」
「知らな、! 朔、朔、は。……どこ?」
彼の口元が笑みの形に動く。
口角を上げた、まったく笑っていない、笑顔のかたち。
「ここ!」
右の掌を胸の真ん中に勢いよく当てて。
汐がそれまでの歌うような、冷たいけどどこか長閑な調子から一変して、鋭い声を出した。
……その時になって、俺は自分が耀くんと汐の声を、言葉を、ごく自然に完全に聞き分けていたことに気づいた。
ホントに今更だ。
「……こ、こ?」
胸に置かれた手を見下ろす、迷子の子どものような頼りない耀くんの声。
「そう、ここ。朔は消えた。『お前』が飲み込んだ」
「僕は、しらな、い」
戸惑っている耀くん。
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