【2】

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「そうかな。朔を。あり得ない、あってはならない自分を(うと)んで追い詰めて、自分ごと殺そうとして、……飲み込んで消した。次は、おれを、消す?」  相変わらず乾いて冷たいけれど、どこか揶揄うように聞こえる声。汐の。 「汐は、消さない。だって、汐は何も、……! 何? 僕は、何言って、──」 「少しずつ混じって来ているんだ、おれたち。今までおれしか知らなかったのに、今は耀もおれのことを知っている。──ねぇ、おれたちどうなるんだろうね」  最後のひとことで突然変わった汐の声音に、耀くんは、……耀くんの身体は、大きく目を見開いてそのままゆっくりと崩れ落ちるように膝を折った。  ナイフはいつの間にか彼の右手を離れて、すぐ傍の地面の上にある。  ぺたんと座り込んだ彼の、生気の欠片もない硝子玉のような瞳、半開きの唇。  ──俺は生まれて初めて、人が『ヒト』でなくなる瞬間を、見てしまったのかもしれない。
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