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◇ ◇ ◇
耀くんはそれから約一週間眠り続けた。
「ママ、どうしたの?」
それが、目覚めた彼の第一声だったらしい。
ちなみに、耀くんが『ママ』と呼んでいたのは小学校低学年までだったらしいが。
お母さんからの知らせで大学から直接病院に駆けつけた俺に、耀くんは無邪気な笑顔を向けて来た。
「先生、わざわざごめんなさい。たった一週間でも寝たきりだと筋力って落ちるんですね。トイレに行こうと思ったらよろけちゃって吃驚しました。歩行器使ったんですよ」
彼は笑いながら、ベッドの脇に置いてある歩行器を指差す。両腕で掴まって上体を預けて歩くタイプのものだ。
「もう、身体はなんともないの?」
何も覚えていないんだろうか。あの、最後の公園での出来事を。
……でも、お母さんのいる前で不用意な話題は出せない。当たり障りのない俺の問いに、ベッドの上の耀くんはあっさり頷く。
「はい、足が少し弱ってる以外は全然。もう入院してる必要もないくらいです」
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