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次の家庭教師の日。
俺はつい、耀くんの顔をまじまじと見つめてしまった。
「……? 先生、どうかされました? 僕の顔に何かついてます?」
薄いレンズ越しの穏やかな瞳、落ち着いた静かな声。……やっぱり、違う。
「なんでもない。なんかぼーっとしてて。ゴメンね」
「いえ、構いませんよ。先生って、すごくしっかりなさってるのに、時々そういうことありますよね」
くすくす笑う耀くんに、俺は少しバツの悪い思いで頭を掻く。
どっちが先生だか年上だかわかんねーな、これ。
「じゃ、じゃあ! 今日はまず数学な。塾の方は今どこまで?」
「あ、テキストの、このあたりで」
表面上は授業に集中する振りをしていながらも、俺は頭の片隅でこの耀くんと先日の少年を比べ続けていた。
──理由も見つけられないまま、ただ延々と。
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