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「……耀くん、じゃ、ない?」
胸がざわめく。俺の身体のどこかで、アラートが鳴り響く。
「耀、ではない」
俺の目を見て口を開いた少年の端的なその答えに、俺は重ねて訊いた。
「だったら、あの、……この間の夜の?」
大きな、不安になるほど大きな夕焼けを背に、耀くんと同じ顔をしたその少年の口から紡がれるのは──。
「あれは、朔。もうひとりの耀」
「……君、は?」
俺が恐る恐る発した問いに、目の前の彼は少し逡巡して答える。
「おれは汐。耀と朔の間。どちらでもないし、……どちらでもある」
「ゴメン。よく、わからないんだけど」
俺、そんなに頭は悪くない、というか、頭だけはそれなり以上にいい筈、だったんだけど。
そんなくだらない自尊心も揺るがすような、目の前の少年の不思議な言葉。
「そうだろうね。実はおれにもよくわからないし、上手く説明できない」
なんだかさらさらと無味乾燥な印象を受ける、その声。
よく聞くと、やはり耀くん、のような気がする。でも違うような気も、する。
もう俺は、すべてに自信がない。
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