【1】

7/13

70人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「……耀くん、じゃ、ない?」  胸がざわめく。俺の身体のどこかで、アラートが鳴り響く。 「耀、ではない」  俺の目を見て口を開いた少年の端的なその答えに、俺は重ねて訊いた。 「だったら、あの、……この間の夜の?」  大きな、不安になるほど大きな夕焼けを背に、耀くんと同じ顔をしたその少年の口から紡がれるのは──。 「あれは、(さく)。もうひとりの耀」 「……君、は?」  俺が恐る恐る発した問いに、目の前の彼は少し逡巡して答える。 「おれは(しお)。耀と朔の間。どちらでもないし、……どちらでもある」 「ゴメン。よく、わからないんだけど」  俺、そんなに頭は悪くない、というか、頭だけはそれなり以上にいい筈、だったんだけど。  そんなくだらない自尊心も揺るがすような、目の前の少年の不思議な言葉。 「そうだろうね。実はおれにもよくわからないし、上手く説明できない」  なんだかさらさらと無味乾燥な印象を受ける、その声。  よく聞くと、やはり耀くん、のような気がする。でも違うような気も、する。  もう俺は、すべてに自信がない。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加