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「昼間、太陽が出ている間は耀。これは日光とは関係なくて、曇りでも雨でも変わらない。日が暮れたら朔」  夕陽を背負った少年は、無表情で温度を感じさせない声音にも拘らず、調子だけは歌うように話す。  それが何ともアンバランスで、俺は堪らなく不安にさせられた。 「……昼と夜の間、太陽が沈み始めて完全に沈むまでの、ちょうど今の時間はおれ」  今の、夕焼けの、時間? 「それはつまり。耀くんと、その朔くん、は別人格ってこと?」  自分で発しておきながら、いったい何を言ってるんだ、と呆れるような俺の問いに彼はあっさりと頷く。 「そう。耀と朔は、単に同じ身体を使っているだけ。記憶の共有はない。だから例えば朔が怪我しても、耀は起きたら何故か傷がある、と不思議に思うだろう」 「二人はお互い、別人格、のことは知らないって理解でいいのか……?」  別人格。  なんなんだ、いったい。マンガかドラマの話じゃあるまいし。 「耀は知らない。本当にまったく。朔は、自分に『耀』というもう一人がいること、……自分が耀から生み出されたことは知っている、けれど知らない」  わざと謎掛けでもしているのかと疑うほどに、意味ありげな言い回し。実際の意図は俺には読めないけど。  もしかしたら、この辺が汐にもわからない部分なのか?
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