1021人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
13話 帰還
「王城……ひさしぶりだな」
鉄道に揺られて二日、そしてまた馬車に乗り換えてしばらく。そびえ立つ王城をランは見上げた。その腕の中では、移動で疲れたルゥが眠っている。
「こちらへ」
「はい」
ランは中に案内され、それについていった。
「ここで待っていてください」
「はい」
レクスの部屋の居間に通され、ランはソファに座った。ここも変わらない風景である。しばらくするとノックの音がした。
「は、はい」
「失礼します」
その聞き覚えのある声に、ランはハッと顔を上げる。
「ロランドさん……!」
「お久しぶりです」
そこには薄く笑みを浮かべたロランドが立っていた。
「お茶をどうぞ、ランさん」
「はい……」
ロランドは盆の上のお茶をテーブルに並べ、ランにすすめた。ランはそっとルゥをソファに寝かせ、お茶を戴く。
「はぁ……やっぱり美味しい」
ランは三年たっても、ロランドの淹れたお茶の味を覚えていた。
「それは良かった。……長い移動でしたが、体は大丈夫ですか」
「え、あ……大丈夫です」
ランはロランドの労りの言葉にギクシャクしながら頷いた。
「そちらがお子さんですね」
「はい、ルゥといいます」
ランは柔らかくサラサラのルゥの黒髪を撫でた。
「……オレの子です」
「はい」
そう言うランに、ロランドは静かに答えた。
「レクス様はまもなくこちらに。少し待っていてください」
「……わかりました」
レクスの名前を出されると、体が強ばるのを感じる。なぜ、こんなに不安な気持ちになるのだろうと、ランは拳を握りしめた。
「待たせた」
その時だった。がちゃりとドアを開けてレクスが入ってきた。どうしようもなく華やかで存在感のある彼の登場に、空気が変わる。
「ラン、来たな」
レクスはソファにちょこんと座っているランを見つけると、にやっと笑った。
「着替えてくる、少し待ってくれ」
そうして自室に引っ込み、寛いだシャツに着替えるとすぐに戻って来た。
「ラン、よく来た」
「うん……」
「ルゥは寝てしまったのか」
「移動で疲れたみたい」
「そうか」
レクスはそう言いながらランの隣に座った。
「あ、あの」
「ランは? 移動は疲れたか」
「まあ……少し」
ランは体温すら感じられるその距離にドギマギして顔を伏せた。
「ん……ママ」
「あ、ルゥ」
その時、ルゥが目を覚ました。ランは逃げるようにしてルゥを抱き上げてレクスから距離をとった。
「ここどこぉ」
「えーと、今日からここで暮らすんだ。ここがルゥのおうちだよ」
「おうち?」
「うん」
二歳の子にどう説明したらいいのかわからないランはルゥにそう答えるしかなかった。
「ルゥ、こんにちは」
「……ちは」
レクスは真面目な顔でルゥに挨拶をした。
「ラン、抱かせてもらえないか」
「あ、うん」
ランはルゥをレクスの膝の上に置いた。
「……ちいさい」
レクスは怖々とルゥを抱いた。同じ色の特徴的な瞳は、はっきりと二人を親子だと示している。
「だれー?」
「前に会ったろう、レクスだよ。……君のパパだ」
「ぱぱ?」
ルゥがそう答えた瞬間――ランはレクスからルゥを取り上げていた。
「ラン?」
「いや……あの……ちょっと疲れたから休むよ」
ランは衝動的にルゥをレクスから引きはがしたことに動揺し、しどろもどろになりながらなんとかそう誤魔化した。
「そうか。夕食までまだ少しある。ランの部屋はそのままだ」
「ありがとう……」
ランは俯き気味にレクスに会釈するとルゥを連れて自室へと滑り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!