12話 再会

5/5
1024人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
「ラン、レクスと話はできたの?」  仕事から帰ってきたビィにそう聞かれ、ランは首をすくめた。 「話になんなかった。一方的に王城に来い、嫌ならルゥを取り上げるって」 「じゃあ……ランは王城に行くんだ」 「……うん」  ランは俯き、唇を噛みしめた。 「オレは別にどこでなにしようと構わないけど……ルゥは本当なら王城で暮らしてたと思うと……」 「ラン……」 「オレじゃ、この生活じゃ上の学校にやることは難しい。この先ルゥの可能性を伸ばしてやれないかもって考えたら……。これも仕方ないのかなって」  レクスの血をひいて探求心豊かに育ったとしても、生活に追われる今の状態ではルゥに満足な暮らしをさせられない。王城で暮らせばそんな心配はなくなる。 「僕もついていくよ」 「駄目だよビィ」  ランは共についてこようとするビィをとめた。 「ビィはここに恋人がいるじゃないか……。これ以上巻き込めない。ビィの幸せを邪魔したくない」 「ラン……ごめん、僕役立たずで」 「ううん。今までビィが居てくれてどんなに救われたか」  ランはビィの肩を掴んで首を振った。 「オレはルゥが側にいれば大丈夫だから」 「……本当に」 「ああ。それに別に監禁されるわけじゃないんだし。ビィに会いたくなったらいつでも飛んでいくよ。だから心配いらない」 「うん……」  ビィは不安げな表情を顔に浮かべたまま、頷いた。 「ランがそう決めたのなら。僕は応援するよ」 「ありがと……」  いつでも自分を気に掛けてくれる優しい友人をランは抱きしめた。 「きっと大丈夫。……なんとかなるさ」  ランはそう、あの日から口癖になっている言葉を呟いた。  それから忙しい仕事と育児の合間を縫ってランは荷造りをした。 「はは……ほとんどルゥのものだな」  自分の親馬鹿ぶりに苦笑しながら、ランは箱にそれらを詰めていく。初めて買ったよだれかけに服、お気に入りだったおもちゃ……。  ここでルゥを育んできた思い出の品々を手に取りながら、ランはため息をついた。 「荷物はこれで全部ですか」 「はい」  そうこうしているうちに月末がやってきた。ランとルゥを迎えにきたのは知らない男だった。 「あの……レクスは」 「レクス様は公務でお忙しいので」 「あっ……そうですか」  冷淡な態度の迎えの男はさっさと馬車に荷物を積むと、ランに乗るように促した。 「はじめに言っておきますが、逃げても無駄です。私もアルファですから」 「……はい」  ランはその言い方に思わず顔をしかめた。アルファはその能力の高さから他のベータやオメガを見下す態度をとるものが多いが、この男はその典型といえる感じだ。 「ラン」  この日は仕事も休みをとったビィが駆け寄って来る。 「ラン、元気でね」 「うん。落ち着いたら……手紙書くから」 「絶対だよ」  手をふるビィに手を振り替えす。その間に馬車は鉄道の駅に向かって走り出した。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!