2話 追憶

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「判定不能……?」 「はい。たまにいるようです。来年にまた検査をするそうです」 「……そうか」  ランの父はそう言うだけだった。そういうランの父はアルファだ。田舎の小さな家といえども一応貴族である。当然息子もアルファ、そうでなくてもベータであることを期待していた。 「来年……来年になれば……」  ランは自分にそう言い聞かせた。だけど、その翌年もまたその翌年も翌年もランに性別の判定がつくことは無かった。 「どういうことだ!?」  ランの父は家に医者を呼んだ。そして隅々までランの体を調べさせた。 「結論を申しますと性成熟が遅れています。ご子息はもう十六歳になります。おそらくはこのままかと……」 「なんだと……」  嘆き悲しむ父を慰める兄達。それを当事者のランは遠くで眺めていた。 「ごめん……ごめん父さん……」  でもどんなに泣いても変わらない。性成熟の進まないまま成長したランはなんだか手足がひょろひょろして小柄で、どこかアンバランスだった。  そんなランを見て、学校でも街でも皆噂する。子供を産めない出来損ない、と。 「ラン……また泣かされたの」 「兄さん……」 「ここは田舎だからね。口さがない人が多い。……俺達はランが健康でいてくれればそれでいいんだよ。父さんだってそう思ってる」 「そうだろうか……」  そうしてランは決意した。この故郷を捨てようと。 「とにかく一番大きな都会……王都に行こう。それなら沢山人が居るし、きっとちょっと変わった奴が居ても誰も気にしないに違いない」  ランはその日のうちに身の回りの荷物をまとめて家を出た。夜行の汽車に乗って、遠く遠くへと。 *** 「王都……かぁ。とりあえず何か仕事を探さなきゃな」  翌朝、汽車は王都に着いた。降り立ったランはそう呟く。家族に何も言わず、飛び出してきた。ツテも知り合いもこの王都にいない。 「レクスの居場所なんて知らないしな」  唯一王都にいる知り合いは昔子供の頃に療養に来て仲良くなった子くらいだ。もちろんどこにいるかなんて知らない。なんせさっき汽車の中で見た夢で久し振りに思い出したくらいだ。 「でも、なんとかしなきゃ」  故郷には戻りたくない。侮蔑と憐れみの目をぶつかられながら死ぬまで生きるなんてまっぴらだ。ランは唇を噛むと、王都の騒がしい人混みの中に消えていった。
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