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砂を噛むような夕食を終えて、ランはルゥを風呂に入れて寝かしつけた。
「ふう……」
ふと窓の外を見る。明るい月が、中庭を照らしている。ロランドと一緒に、レクスの身の回りを世話したり、部屋や中庭を整えていた頃を思い出した。
「あの頃は、レクスの隣に居場所があるって思えてたんだけどな」
ランはそう呟いてカーテンを引く。
「ラン、ルゥは寝たのか」
「うん。もうまとめて寝てくれるようになったから助かる」
ランが居間に戻ると、レクスは読んでいた本から顔をあげた。
「……飲むか?」
レクスは自分の飲んでいた蒸留酒のグラスをカラカラと鳴らした。
「レクスお酒飲むんだ」
「ん、まあな」
以前は夜に酒を飲んでいる姿をみたことは無かったと思う。ランは少し驚きながら、レクスの向かいに座った。
「じゃあ……少し貰おうかな」
「ああ」
ランはレクスから手渡された琥珀色の蒸留酒のグラスをじっと見てぐっと煽った。
「ごっほ……苦い」
「強かったか? 水で割るからよこせ」
「ごめん」
「酒はあまり飲まないのか?」
「うん、ルゥが気になるから……レクスは晩酌なんて前はしてなかったじゃない」
「そうだったかな」
レクスはふいとランから顔を逸らした。その横顔を見ながら、ランはレクスに気になって居たことを聞こうと思った。ごくりとつばを飲み込んで、ランはレクスに問いかける。
「レクス、オレ逹の居場所……どうやって突き止めたの」
「……ロランドが、根気よくアレクの部下の動きを追った」
それはウォルの動向を探ったということだろうか。
「……ずっと探していたんだ。ラン。俺は『任せろ』と言ったはずだ。どうして逃げたりしたんだ」
「それは……」
ランは俯いた。レクスの側から逃げ出したのは。彼の『友人』としての立場が壊れてしまったからだ。そしてなによりレクスの横で彼にふさわしい番が現われるのを見るのが怖かったから。
「レクスの……レクスの側にいてもしかたないって思って」
「仕方ない?」
レクスの目がぎらっと光った気がした。その次の瞬間、ランはレクスにぐっと手を掴まれ引き寄せられた。
「仕方がないかどうかは……俺の決める事だ」
「なんだよ、それっ」
ランはレクスの腕を引き離そうとした。ところがレクスの力は強く、ランの抵抗ではびくともしない。
「なぜ……」
「なんだよっ、レクス放せ!」
「なぜ、アレンを頼った」
「え……?」
気が付けば、ランはソファに押し倒され上からレクスに押さえつけられていた。
「アレンに頼るなんて……許せない」
「……レクス」
見上げたレクスの顔は青白く、凍り付くような目をしていた。
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