1026人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
「いたっ」
「あ……すみません」
取れた! 後は逃げるだけ。ランはすぐさまその場を後にしようとする。しかし足は空を切って前に進めない。
「なっ」
「……おい」
男はランの襟首を掴んでいた。
「今、財布をすったな」
「え、ええ~と」
ランは恐る恐る振り返る。白銀の髪に明るい緑の瞳がランの視界に入る。しまった、失敗した。でも、失敗したらダンがゆすりに出てくるはずだ。分け前は減るけどしかたない。
ランはそんな風に考えて居たが、男の反応はちょっと違っていた。
「お前……」
そう言って、ランの顔をじっと覗き混んでくる。
「……?」
ランが何か違和感を感じて思わず首を傾げそうになった時だった。ドン、と衝撃が走って、ランを捕まえていた手が離れた。
「おう! 兄ちゃん、仲間に何してくれてんの」
ダンだ。仲間の中でも一際大柄な彼が男の前に立ちふさがった。
「ラン、今のうちに逃げろ!」
「う、うん」
ランが慌ててその場を後にしようとした。ところが男が再びランを捕まえた。
「うげっ!」
「ラン……だと? お前ランっていうのか?」
「え、そうだけど」
「馬鹿! ラン逃げろっていったろ!」
ダンが地団駄を踏みながら叫んだ。ごめん、ダン。ドジ踏んだ。ランはそう思いながら何とか男の腕から逃れようとしたが、男の力は強くびくともしなかった。
***
「ランを放せよ!」
ダンが男の前に立ちふさがった。体格的にはダンの方が大きい。だが男は怯む様子も慌てる様子も無かった。
「ラン!」
その様子に加勢しようとしたのかビィも出てくる。
「おいそこの兄さん。ここがどこかわかってんのか?」
「……さあな」
「この吹きだまりに素人が入ってただで帰れると思うなよ」
ビィはそう言うと指笛を鳴らした。するとぞろぞろと浮浪児たちが集まってくる。
「さあ、ランを放せ」
「うるさい……散れ!」
ビィの要求を、男は一蹴した。その声に浮浪児達はびりびりと痺れるような感覚を覚えた。
「……な、なんだこれ」
「こいつ……アルファだ。それも普通のアルファじゃない……」
ランの仲間達は硬直したまま動けなくなってしまった。ただ、男が一声発しただけなのに。
「……ふん」
そのまま男は来た道を引き返そうとした。ランを抱えたまま。
「おい! ちょっと。ごめんて、財布は返すよ」
「そういうことではない」
「え、どういうこと!? って放せって!」
ランはやけくそになって無茶苦茶に暴れた。
「……少しじっとして貰おうか」
男の手がランの目元を覆った。ビリッと強い衝撃がランの脳に走って、ランは気を失った。
最初のコメントを投稿しよう!