3話 下町

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「いたっ」 「あ……すみません」  取れた! 後は逃げるだけ。ランはすぐさまその場を後にしようとする。しかし足は空を切って前に進めない。 「なっ」 「……おい」  男はランの襟首を掴んでいた。 「今、財布をすったな」 「え、ええ~と」  ランは恐る恐る振り返る。白銀の髪に明るい緑の瞳がランの視界に入る。しまった、失敗した。でも、失敗したらダンがゆすりに出てくるはずだ。分け前は減るけどしかたない。  ランはそんな風に考えて居たが、男の反応はちょっと違っていた。 「お前……」  そう言って、ランの顔をじっと覗き混んでくる。 「……?」  ランが何か違和感を感じて思わず首を傾げそうになった時だった。ドン、と衝撃が走って、ランを捕まえていた手が離れた。 「おう! 兄ちゃん、仲間に何してくれてんの」  ダンだ。仲間の中でも一際大柄な彼が男の前に立ちふさがった。 「ラン、今のうちに逃げろ!」 「う、うん」  ランが慌ててその場を後にしようとした。ところが男が再びランを捕まえた。 「うげっ!」 「ラン……だと? お前ランっていうのか?」 「え、そうだけど」 「馬鹿! ラン逃げろっていったろ!」  ダンが地団駄を踏みながら叫んだ。ごめん、ダン。ドジ踏んだ。ランはそう思いながら何とか男の腕から逃れようとしたが、男の力は強くびくともしなかった。 *** 「ランを放せよ!」  ダンが男の前に立ちふさがった。体格的にはダンの方が大きい。だが男は怯む様子も慌てる様子も無かった。 「ラン!」  その様子に加勢しようとしたのかビィも出てくる。 「おいそこの兄さん。ここがどこかわかってんのか?」 「……さあな」 「この吹きだまりに素人が入ってただで帰れると思うなよ」  ビィはそう言うと指笛を鳴らした。するとぞろぞろと浮浪児たちが集まってくる。 「さあ、ランを放せ」 「うるさい……散れ!」  ビィの要求を、男は一蹴した。その声に浮浪児達はびりびりと痺れるような感覚を覚えた。 「……な、なんだこれ」 「こいつ……アルファだ。それも普通のアルファじゃない……」  ランの仲間達は硬直したまま動けなくなってしまった。ただ、男が一声発しただけなのに。 「……ふん」  そのまま男は来た道を引き返そうとした。ランを抱えたまま。 「おい! ちょっと。ごめんて、財布は返すよ」 「そういうことではない」 「え、どういうこと!? って放せって!」  ランはやけくそになって無茶苦茶に暴れた。 「……少しじっとして貰おうか」  男の手がランの目元を覆った。ビリッと強い衝撃がランの脳に走って、ランは気を失った。
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