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だが今は違う。新たな情報を与えられ、その多くが受け入れがたいことで……珪己の心は問答無用で揺さぶられていた。
荒海のごとく押し寄せてくる様々な感情は容赦ない。やわな珪己の心を手加減なしで痛めつけてくる。
「うう……う……」
「大丈夫ですか?」
「いや、だ……。嫌だ……」
「珪己殿?」
「いや……嫌です……。仁威さんに……仁威さんに会わせて……」
目覚めて以来、珪己が仁威を乞うたのはこの時が初めてだった。
「それは……」
ぐっと、侑生の喉が鳴った。
「私はまだ信じていませんから……。仁威さんが亡くなったなんて信じていませんから……。そうよ、やっぱり私と子供だけでもここに残らなくちゃ。仁威さんが戻ってくる場所がなくなっちゃうもの」
ぶつぶつとつぶやく珪己の様子に異変が生じ始めている。
「ね。今までの話は全部嘘ですよね? あの王子を欺くためにでっち上げた嘘ですよね? 私におとなしく王子の元へ出向いてほしくて、それでこんな盛大な嘘をついているんですよね?」
「珪己殿……」
こんなにも切なげな顔で見つめてくる侑生が嘘をついているとしたら、この男は歴代一の策士になれることだろう。ただ、今の珪己には冷静な判断はできなかった。
「私、ちゃんと騙された演技もできますから。あの王子の前で泣きながらすがってみせるくらいのことはできますから。だから本当のことを教えてください。本当は仁威さんは生きていて、他のみんなも無事なんですよね? ね?」
「珪己殿。開陽に戻りましょう。あなたはお父上の元に戻るべきです」
「いや……! それはいや……!」
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