少女篇1 第七章

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 王美人はそれを手に持つ扇子で軽く払った。 「大丈夫だ、果鈴。ほんにそなたは主人思いだのう。そなたはこうしてこの娘を私の前に連れてきてくれたではないか。これこそ至上の喜びだ」  そして珪己のほうを見やった。 「のう、珪己といったか。私はな、陛下が私以外を愛するところなど死んでも見たくないのだ」  淡々と語ってはいるものの、その目は言葉以上の荒ぶる感情を映し出している。 「これ以上の地獄には耐えきれぬ。床からも出られぬような、寵愛を失くした胡麗と違い、お主は若く健康で、私にとっては菊花以上に危険に思える。だからそなたのことは殺すと決めた」 「……それであなたの気は晴れるかもしれません。けれど、それでは陛下の心はますますあなたから離れていってしまいませんか」 「私が満足するからそれでいいのだよ。それに陛下は今後も私を愛することはないであろう……。それ以前に、陛下にとって私など、その辺にいる蛆虫(うじむし)よりもたちが悪い。存在すら気づいてもらえていないでな……。であれば、そなたを殺して、私がどれだけ陛下を想っているか知らしめてやりたいと考えてもよいであろう?」  薄い笑みをたたえながら、王美人が静かに立ち上がった。そして無言で珪己の傍に近づくと、珪己の顔を少し眺め、その頬をすうっとなでた。 「……若く美しい肌だのう。陛下がお喜びになるのも無理はないか」  そうつぶやくと、頬にあてていた手を珪己の頭上にやり、唯一の(かんざし)を静かに引き抜いた。  ほどかれた珪己の長い髪が肩に舞い散る。  王美人は両手で黄真珠の簪を持ち、まじまじと見つめた。 「……私はこのような品をいただいたことはない」  次の瞬間、先ほどまでの優雅なふるまいが夢であるかのように――王美人は簪を片手に持つと、その先端を珪己の瞳に向かってびゅっとふるった。
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