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プロローグ
運命はなぜこうも弱い人間にいたずらするのだろう?
明白な事実ほど、誤られやすいものはないよ。
Byシャーロックホームズ
そろそろ初夏、早いもので五月も終わる。俺も受験生、頑張らねば。
「あの人にばかにされるのが酌だからやるしかねえし」そう書かれたノートを閉じた。
今季節は夏になろうとしていた。
綾乃ちゃんの事件がすべて終わり。中間テスト、三者面談、期末テストと三年になるとこうも忙しいのかと思わせるほどの予定でびっしり。なんか机にしがみついてるみたいな今日この頃。
田神さんからごめんという知らせが届き、今やっとそのノートの表紙に事件解決とかきこむことができた。
梅雨までは、まだまだだけど、ここんとこ雨が降り続いていて、じめっとして蒸し暑い。冷凍庫からアイスを出した時のひやーっとした空気に高い湿度が相まって、ドライアイスに水をかけたときのように冷気が白い滝となって流れ出たときに、あれ?そういえば連絡がねえぞ?ある事件の詳細を思い出したのだ。まあ俺も忙しさで忘れていたんだけど、どうなっているのかやっと聞いたら向こうから謝られたという訳で。
この話は、まだ日向先輩が卒業する前の話だ。
まったく、半年も待たせやがって、とぶつぶつ言いながらも、アイスを口に入れ、机の引き出しの奥にあるプラスッチックケースにノートをしまい込んだ。未解決、まだ解決と書かれていないノートを一番上に置いて・・・
「自分の失敗を語るのに躊躇はしない。」
これはシャーロックが言った言葉で、裏の言葉があると俺は思っている。
それは、自分の成功をいくら語っても、それは自己満足であって、人の心には何も響かない。だが失敗は、ああ彼でも失敗するのだと思えば身を乗り出し、同じ目に合わない様にと試行錯誤する。
それと、人は自分の事をよく言おうとすると雄弁になる、どんどん膨らんだ話に尾ひれをつけ、どうだと言わんばかりに聞かせたくなるものだ。
だからこそ、成功は話さなくても、誰もが認めてくれはするだろうが、失敗に関しては、人はそれほど強く突っ込んで聞いてこないからこそ、シャーロックは自慢げにその失敗を話したのだと思う。
失敗と言ってもいいのかわからないが、それを隠そうとした結果がある事件を生み出したということだけは言えるのかもしれない。
人間は成功させるために努力をする生き物だ、生まれたばかりの赤ん坊が何でも成功させるのであれば、人間自体この世界には存在しないであろう。だがその努力は自分がやって初めて実になるわけで、何かから逃れたいために、他人にやってもらおうなんて考えるから、悪魔の餌食、いいや、神の裁きを受けたのかもしれない、と俺は思った。
運命はなぜこうも弱い人間にいたずらするのだろう?
シャーロックの落胆はいつの時代も変わらないのだと、悪魔は時として忘れたころに顔を出しては世界中をひっかきまわしていってしまうのだ。
それは教師という聖職者の仮面をかぶっていた悪魔の仕業だったのかもしれない。
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