"心の叫び"

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一輝は、颯に心から謝ろうと、父親と共にもう一度会いに行った。 父親に、颯が一輝に会ってもいいと言ったら病室にくるよう言われていた。ロビーで暫く待っていると、病室に来るようにと言われたので、てっきり颯の了解を得れたと思った。 病室に入ると、颯は、優也に抱きしめられながらベッドに横になり眠っていた。 一輝は、颯の様子を見て動揺する。 元々細身なのに、更に痩せ、顔色は悪く、目元は赤く腫れ、髪の毛がベッドに散らばっていた。 「一輝、颯の今の姿を見てどう思う?お前が言った言葉で、颯は食事をしてもすぐ戻す。夜もお前の嫌悪の表情と声が蘇って、魘される。情緒不安定になって、泣き叫んで頭を殴り、髪の毛を毟り暴れるから安定剤を投与しなければならない。私が、お前の事を話したら暴れたのでさっき安定剤を投与したんだ。」 一輝は、ベッドサイドまで颯に近づき、顔を触ると酷く冷えていた。 「ごめん。颯、酷い事言ってごめん。」 ただ、一輝はうずくまって泣くことしか出来なかった。 "颯の幸せをぶち壊してしまった。俺はなんて事を。ずっと苦しんでいた颯に、また苦しみを与えてしまった。どう償えばいい?颯?どうすれば" 優也は、自分が元教生である事を一輝に思い出させた。 「颯が君を避けるようになる前だ。颯は一度壊れてしまったんだ。 颯はね、一輝君の事が好きで好きで堪らなくて君が全てだったんだ。勿論、そんな事君に言えないし、ゲイである事も打ち明けれなかった。けれど、親友としてならずっと傍にいれるし、颯を一番に見てくれると思っていたんだ。 けれど、君は目の前にいる颯より、先を見ていた。だから、どうしていいか分からなくなって、理科準備室で泣き叫んでいた。その颯を俺が見つけたんだよ。それからずっと俺と颯は付き合っているんだ。」 優也は、颯をぎゅうと強く抱きしめる。 一輝は、え!?と颯の顔を見る。 "俺が、受験勉強に集中したいから、家に来るなと言った時だよな。それに、俺、愛子にもう一度好きだと言えるように、、、" その時、颯は俯いていたけど、泣いていた。それから、暫く教室に戻って来なかった。あの時か、と一輝は更に顔を歪める。 「別に君を責めようとは思っていないよ。一輝君の人生なんだし、前を向いて必死になるのは当たり前の事だしね?颯は、何でもできてしまうから、興味を持てるものが無かった。だから、余計に君に執着したんだと思うよ?だから、その事で君がそんな顔をしなくていいんだ。」 優也は、一輝に優しく笑った。だが、直ぐに冷たく鋭い表情になる。 「けれど、俺の大事な颯に、気持ち悪いと言った事はちゃんと謝りなさい。君の事はもう恋愛対象として見てはいないが、いつか本当の自分を君に理解して欲しいと思っていたんだよ?本当の親友になりたいって言ってたんだ。」 一輝は、泣きながら颯を見ながら、何度もごめんなと謝る。 「それから、暫くは颯の前に姿を現せないでくれ。颯が落ち着いて、君の前に現れるまでは決して。その時、颯に心から謝って欲しい。」 一輝は、分かりましたと、優也に頭を下げた。 "颯の気持ちが落ち着くまで、ずっと待とう。そして、必ず謝ろう。" それから4年経っても、颯は一輝の前に姿は現れる事は無かった。
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