第一章

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「由香はそんな暴行をする恐ろしい子ではありません。愛子だって、本当は転んだだけかもしれない。声だって、本当は出るんじゃないかといつも疑ってました!」 「きっと、私達の気を引きたいだけです。」 由香の母は、そう言い放った。 蒼太は怒りが込み上げてきた。 「転んだだけかどうかですが。それは100%殴られた事は間違いないでしょう。それに、首を絞められた痕もあります。これはどう説明しますか?明らかに、彼女を殺そうとしていたのが分かります。また、そちらにいるのは、中里というのですが、由香さん達の学校の養護教諭をしています。彼の報告を受けた所によると、ここ最近、顔色が酷く悪なり、痩せていっていると言ってます。これに関しては?あなた方は、愛子さんをちゃんと見ていましたか?由香さんの事も?」 由香の母は心外だと言わんばかりに、一輝の父に噛み付く。 「ちゃんと見てますとも。由香は本当に優しくて、愛子の事だって本当に心配していて、いつも一緒にいてあげてたんですよ!愛子の事ですが、私達は、この子には本当に手を焼きました。でも、可哀想だから、文句を言わずに面倒見てあげてたんじゃないですか!なのに、、、」 由香と母は抱き合って泣いていた。荻野は、溜息をつくしか無かった。 「由香さんが、愛子さんといつも一緒にいたのは、暴行するためではないのですか?あと、愛子さんがあなた方に気を引きたいんじゃなくて、由香さんのほうがあなた方に気を引いてもらいたいんじゃないですか?」 荻野は続ける。 「あなた方の涙は、自分が可哀想で可哀想で仕方ないというみっともない涙です。あなたは、もう少し子供の事をちゃんとみれているのか今一度、考えるべきですな。後、愛子さんですが、入院して治療が必要でしょう。身体も心も休ませるために。ここには、入院施設はないですが、私とそこに居る家内で家で預かりましょう。愛子さんのケアをしましょう。どうしますか?」 「そうして下さって結構。あの子には本当に迷惑かけられましたから。いっそもう帰ってくるなと言っておいてください。」 由香と由香の母は、勢いよく診察室を出た。 だが、由香の父だけは。 愛子の側に行き、頭を撫でる。 「ごめんな。力になれなくて、本当にごめんな。」 由香の父は、由香達とは違い、愛子の事を心から心配し、案じていた。だが、自分の家族を優先に考える節はあったと思う。 それに、もし、由香が愛子に暴行していたならば。それは見過ごしてはならないと思った。きちんと、家族で向き合わなければならないと心に誓う。 「先生、先程は妻と娘が大変ご迷惑をおかけしました。それに、愛子の事も。ありがとうございます。私がもっとしっかり妻と娘と向き合っていればこんな事にならなかったのでしょう。由香が愛子に暴行などしていたならば、しっかり反省させます。どうか、愛子を宜しくお願い致します。」 由香の父は、一輝の父、母、蒼太に深く頭を下げ、診察室を出て行った。
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