第三章

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広江の葬儀には、沢山の人々が弔問に来ていた。 荻野は、お棺を覗き込み広江の幸せそうな顔を見る。 「広江さん、お疲れさん。良かったなぁ〜最期に曾孫に会えて。安らかに眠るんだぞ。」 だが、荻野は弔問客を見て顔が引き攣った。 半数以上が、ダンディなお爺さんだらけだった。20人はいる。あとは、多分あの世に逝った恋人達も沢山いたと本人が、寂しそうに言っていた。が、その後もこんなにーーーー。 昔ここにいる何人か、広江を巡って喧嘩で怪我したのを治療をした事がある。 荻野はいくら、亡くなった旦那が恋をしていいと言ったからと言って、恋しすぎだぞとため息がでる。 「お父さん、私がお父さんが亡くなった後、沢山恋人作ったら怒る?」 一輝の母が笑う。 「勘弁してくれ。」 「冗談よ。でも、子供達、特に愛子ちゃんには絶対言えないわね。」 荻野は頭を抱える。 「言える訳ないだろう。家族や亡き夫の話を愛子ちゃんにしたんだろう?そして生涯独身を貫いた優しく強い女性をアピールしたんだ、あの婆さんわ。」 「あら、広江さんは、優しく強い女性だと思うわよ?」 荻野は、苦笑した。 ″最強で、最高の女性″だったよ、と。 そして、荻野達がそんな会話をしているとは思いもよらない、愛子を含む子供達が広江の最期のお別れをしていた。 「広江さ〜ん。」 風香は、広江の棺にしがみついて号泣していた。颯は、そんな風香をヨシヨシと頭を撫でてやりながら、広江の幸せそうな顔を見つめる。 唯斗も男泣きしていた。 唯斗とは、新鮮野菜を届ける約束をしていた。そして、唯斗の好きな料理を作ると言っていたのだ。 唯斗の事も、自分の孫の様に可愛がられていた。唯斗も実の祖母の様に思っていたのだった。 愛子は、やっと曾お祖母ちゃんに会えたのにと、とても寂しい気持ちになった。だが、亡くなる前日に、沢山の愛を、愛子の心に注いでくれた。広江の言葉は、一生忘れないと心に誓う。 広江の幸せそうな顔を見ると、涙ではなく、自然と笑顔になれた。 一輝も、広江には随分可愛がって貰えた。だから、とても寂しいと思う。だが、愛子と同様、亡くなる前の広江を思うと、決して辛い別れではない。 ゆっくり、ご主人と安らかに眠って欲しいと静かに祈った。
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